|
||
Giacomo Puccini “Un bel dì, vedremo” 《Madama Butterfly》 ATTO SECOND |
||
<イタリア語歌詞> |
<日本語歌詞> |
|
ウン ベル ディ ヴェドゥレモ Un bel dì, vedremo |
ある晴れた日 | |
レウァルスィウン フィル ディ フモ スッ レストゥレモ levarsi un fil di fumo sull' estremo |
遠い海のかなたに | |
コンフィン デル マレ confin del mare. |
煙が立ち | |
エ ポイ ラ ナウェ アッパレ E poi la nave appare. |
船がやがて見える | |
ポイ ラ ナァヴェ ビアンカ Poi la nave bianca |
真白い船は | |
エントゥラ ネル ポルト entra nel porto, |
港に入り | |
ロンバ イル スゥオ サルト romba il suo saluto. |
礼砲を打つ | |
ヴェディ エ ヴェヌト Vedi? È venuto! |
ごらん あの人よ! | |
イオ ノン リィ シェンド インコントロ イオ ノ Io non gli scendo incontro. Io no. |
だけど迎えにゃ行かない | |
ミ メット ラ スル チリオ デル コッレ エアスペット Mi metto là sul ciglio del colle e aspetto, |
近くの岬へ出て そこで | |
エアスペット グラン テンポ エ ノン ミ ペザ e aspetto gran tempo e non mi pesa, |
あの人を待つのよ | |
ラ ルンガアッテェザ la lunga attesa. |
いつまでも | |
エ ウシィト ダッラ フォッラ チッタディナ E... uscito dalla folla cittadina |
港の町をはなれて | |
ウン ウオモウン ピッチョル プント un uomo, un picciol punto |
人の姿が | |
サッヴィア ペル ラ コッリナ s'avvia per la collina. |
山を登ってくる | |
キ サラ キ サラ Chi sarà? Chi sarà? |
あれはどなた? | |
エ コメ サラ ジュント E come sarà giunto |
登りつめれば | |
ケ ディラ ケ ディラ che dirà? che dirà? |
なにを言うでしょう | |
キアメラ バタフライ ダルラ ロンタナ Chiamerà Butterfly dalla lontana. |
||
イオ センツァ ダル リスポスタ メ ネ スタロ ナスコスタ Io senza dar risposta me ne starò nascosta |
答えずに 私ゃ隠れましょう | |
ウン ポ ペル チェリア un po' per celia |
さもなけりゃ | |
エ ウン ポ ペル ノン モリレアル プリモ インコントゥロ e un po' per non morire al primo incontro, |
嬉しさに死ぬかもしれない | |
エデッリィ アルクゥアント イン ペナ キアメラ キアメラ |
するとあの人は私を呼びます | |
ピッチナ モリィエッティナ オレッツォ ディ ヴェルベナ Piccina mogliettina olezzo di verbena, |
「かわいい奥さん オレンジの花」 | |
イ ノミ ケ ミ ダヴァアル スゥオ ヴェニレ i nomi che mi dava al suo venire |
ちょうど昔 よく呼んだように | |
トゥット クゥエスト アッヴェッラ テ ロ プロメット Tutto questo avverrà, te lo prometto. |
きっといつかこうなるの | |
ティエンティ ラ トゥア パウラ Tienti la tua paura, |
だから泣いちゃいやよ | |
イオ コンスィクラ フェデ ラスペット io consicura fede l'aspetto. |
あの人は帰る ほんとよ |
《直訳》
ある晴れた日(※)、海の彼方にひとすじの煙が上がるのが見えるでしょう。
やがて船が姿を見せます。
その真っ白い船は港に入り、礼砲を轟かせます。
見える? あの人がいらしたわ!
でも私は迎えには行かないわ。行かないの。
あそこの丘の端に立って待つわ、長い時間。
長い時間待ってもなんともないわ。
すると・・・人々の群れから離れ
小さな点のように見えるひとりの人が
丘に向かって来るわ。
誰でしょう、誰かしら。
どんなふうにして着いたのかしら。
なんと言うでしょう。なんて言うかしら。
遠くから 「蝶々さん」 と呼ぶでしょう。
でも私は返事をしないで、隠れているわ。
それはちょっとはいたずらでもあるし、
久しぶりに会うので喜びに死んでしまわないためでもあるのよ。
それであの人は少しばかり心を傷めて呼ぶでしょう。呼ぶわ。
「かわいい妻よ、美女桜の香りよ」
これはあの人が来た時私につけてくれた名前なの。
(スズキに)
すっかりこのとおりになるのよ、約束するわ。
あなたは心配していればいいわ。
私はかたく信じて、あの人を待ってます。
※ Un bel dì は直訳すると 「美しい日」 となり、「美しい」 に当たる bel は不定冠詞を強めたものとして
「或る日」 と訳しているものもいくつかあります。
実際、この歌は恋人が帰ってくる日の喜びを歌っているもので、その日が必ずしも晴れている必要はないことから、
“天気が良い” ではなく、“その人にとって素晴らしいことがある” ある日という解釈をとっていると思われますが、
どうやら原作に、恋人が晴れた日に帰ってくるよというセリフがあるらしく、そこからきていると思われるので、
ここではよく知られているとおり、“ある晴れた日” という訳をとっています。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
《トスカ》 に続く、プッチーニの第6作目のオペラ。
この 《蝶々夫人》 は舞台が日本ということで親しまれていますが、作曲したプッチーニはもちろん、
原作者、劇作家、台本作家の誰も日本を訪れたことがないため、設定や人名は日本人からみるとかなり奇異に映ります。
1900年 《トスカ》 のロンドン公演のため、同地に赴いたプッチーニは6月にアメリカの劇作家ベラスコ(David
Belasco)が 脚色した戯曲 《Madama Butterfly》 を見て、英語が分からなかったにもかかわらず、いたく感激し、オペラ化を思い立ちました。
この戯曲の原作はアメリカ人の弁護士兼小説家のロング(John
Luther Long)が長崎に滞在したことのある姉から聞いた長崎時代の実話を
もとにした短編小説「蝶々夫人」《Madame Butterfly》
で、
その小説はフランス人ロティ(Pierre Loti)の
物語「お菊夫人」《Madame Chrysanthème》 を踏まえているという説があります。
台本を書いたイッリカはオペラの最後をロングの原作どおり、子供が走りこんできて、スズキが傷の手当をしたことで
蝶々さんは死なないことにしようとしましたが、結局戯曲と同じ、悲劇的な結末の2幕のオペラになりました。
1904年2月17日、ミラノ・スカラ座での初演はプッチーニを敵視するグループの妨害工作や幕割りの悪さ、
曲の問題などがあってオペラ史上に残る大失敗となり、終演後、主役の歌手が泣き崩れたほどでした。
プッチーニはただちに上演を打ち切り、長すぎる2幕目を2つに分け、アリアを改作、追加したりと大幅な改編を行い、
約3ケ月後の5月28日にブレーシャのグランデ劇場で再演しました。
それは文句なしの大成功をおさめ、以後世界中の舞台にかけられるようになりましたが、初演時のプッチーニの怒りはすさまじかったらしく、
この作品が世に認められてからもスカラ座に上演許可を与えることはありませんでした。
オペラは典型的なプリマ・ドンナ・オペラで、蝶々役のソプラノひとりに成功の鍵がすべてゆだねられているといっても過言ではありません。
高音ばかりでなく、低音の太い声も要求され、しかも出ずっぱりの歌いっぱなし。スタミナと集中力も必要な 「ソプラノ殺し」 の難役です。
日本を舞台にしているだけあって、オペラには 「君が代」、「さくらさくら」、「お江戸日本橋」、「越後獅子」 など多くの日本の曲、旋律が使用されています。
「蝶々夫人」 のあらすじ 全2幕3場
第1幕 ATTO PRIMO
19世紀終わり(1895年)ごろの長崎。周旋屋のゴローが港の見える丘の上にある日本家屋を、
アメリカ海軍の砲艦リンカーン号に乗船している中尉、ピンカートンに説明している。
続いて女中の軽雲(スズキ)と下男2人を紹介する。
領事シャープレスが丘をのぼってくる。
ピンカートンはこれから結婚する日本人の花嫁を屏風に描かれた乙女が抜け出て蝶のように舞っては止まるので
追いかけずにはいられないというが、この国では家も結婚も自由自在、いつでも解消できるという。
それを聞いたシャープレスは、本気で恋をしている蝶の翅をむしりとったり、信じきっている心を悲しませたりしたら、ひどい罪だと忠告するが、
ピンカートンは私があの翅を愛に飛び立たせてもひどいことではない、この結婚は日本にいるときだけのもので、
アメリカに戻ったらアメリカ人の女性と本当の結婚式をあげると答える。
やがて花嫁である蝶々さんと女友達が丘をのぼってくる。
シャープレスは蝶々さんと話し、彼女の父は死に、生活苦のために芸者になったこと、そして15歳だと知って驚く。
親戚や役人たちがやってくる。結婚式の準備のあいだ、蝶々さんは袂から次々と手鏡、扇子など身の回りのものを取り出し、ピンカートンに見せていく。
ピンカートンはそのなかの細長い小箱(鞘)に興味を持つが、蝶々さんはこれは神聖なものだからと見せずに家のなかへ持っていく。
ゴローはピンカートンの耳元で、あれは蝶々さんの父親が切腹した短刀だと教える。
戻ってきた蝶々さんはきのう教会へ行き、キリスト教徒になったと話す。やがて準備が整い、結婚式が執り行われる。
親戚一同が結婚を祝って飲むなか、僧侶で伯父のボンゾーがやってきて、祖先からの信仰を捨てた蝶々さんを非難する。
ボンゾーは皆に立ち去るよううながし、ピンカートンも蝶々さんをかばって立ち去るよう命じたので、一同は絶縁を宣言し、去っていく。
泣き出した蝶々さんをピンカートンは優しくなぐさめ、ふたりは静かになった庭から家へあがっていく。
第2幕 第1場 ATTO SECOND, PARTE PRIMA
3年後。ピンカートンはアメリカへ行ったきり戻ってこない。
残されたお金もわずかとなり、スズキはピンカートンは戻ってこないことを匂わせるが、
蝶々はピンカートンがアメリカに行く前、駒鳥が雛を抱く季節になったら帰ってくるよといった言葉を信じている。
シャープレスとゴローが庭に現れる。
シャープレスがピンカートンから預かってきた手紙を見せると、蝶々さんは喜び、アメリカでは駒鳥はいつ巣を作るのですかとたずねる。
きょとんとして聞き返すと、駒鳥が巣を作る季節に戻ってくると約束したからと答えるが、それを縁側近くで聞いていたゴローは大声で笑う。
ピンカートンがアメリカに帰るとすぐ、ゴローは蝶々さんに次々と縁談をもってきていた。
そのなかのひとり、金持ちのヤマドリがやってきて求婚するが、蝶々さんは結婚しているからと聞く耳持たず、ヤマドリとゴローは帰っていく。
手紙を読み始めたシャープレスは一文読むたびに喜んだり驚いたりする蝶々さんの様子に、
アメリカで結婚し、妻を連れてやってくるという手紙の内容を言い出せず、途中でやめてしまう。
もしピンカートンが帰ってこなかったらどうするか尋ねると、蝶々さんは芸者にもどるか死ぬかだと答え、死ぬほうがいいという。
ヤマドリとの結婚をすすめると、蝶々さんは奥からピンカートンが帰ってから生まれた彼の子供を連れてくる。
子供の名は今は 「悲しみ」、だけど、ピンカートンが帰ってくれば
「喜び」 に変わる、それを伝えることを了承すると、
シャープレスは挨拶をして急いで立ち去っていく。
スズキがゴローをつかまえて入ってくる。
わけを聞く蝶々さんにスズキは、ゴローが蝶々さんの子供の父親が誰だか分からないといいふらしているという。
ゴローはアメリカでは正式に認知されていない子は人々からのけ者にされると言っただけと言い訳するが、
怒った蝶々さんは父親の形見の短刀を持ち出し、殺してやると叫ぶ。
スズキが間に入ってとめ、ゴローは逃げていく。
港の大砲が聞こえ、縁側から港に錨をおろそうとするアメリカの軍艦が見える。望遠鏡で見ると船の名はリンカーン号。
蝶々さんはピンカートンが帰ってきたと喜びに泣き、部屋いっぱいに花を撒き、子供を着飾らせて家のなかでじっと待つ。
やがて夜になる。
第2幕 第2場 ATTO SECOND, PARTE SECONDA
スズキと子供は眠ってしまう。蝶々さんだけがじっと外をのぞいて待っている。
朝になり、目を覚ましたスズキはピンカートンがきたらお呼びするからと、蝶々さんと子供を休ませる。
しばらくしてピンカートンとシャープレスがやってくる。
蝶々さんを起こさないでくれと言うピンカートンにスズキは蝶々さんが3年間、港に入った船の旗を望遠鏡で見分けていたことや、
昨日花で家を飾ったことを告げると、ピンカートンは動揺を隠せない。
外にはアメリカで結婚したピンカートンの妻ケイトがいた。子供を引き取りたいとの話にスズキはケイトと話しに外に行く。
シャープレスは結婚するときに彼女は真剣だといったはずといい、後悔の念に苛まれているピンカートンはいたたまれなくなり逃げ去る。
蝶々さんがおりてきて、ピンカートンを探すが見つからない。庭に女の人がいるのを見て、すべてを悟る。
ピンカートンが引き取りにくれば子供は渡すと答え、蝶々さんは半時間後にきてくださいとシャープレスとケイトをいったんかえらせる。
スズキに障子をしめさせ、外で遊んでいる子供をみてきてというが、蝶々さんの覚悟を知っているスズキは泣きながら離れようとしない。
しかし決然とスズキを外へやり、ひとりになった蝶々さんは箪笥から白い布を出して屏風に投げかけ、
短刀をとりだすとその刃に口付けし、柄と刃先を両手で持って、刻まれている言葉、『名誉をもって生きることができない者は名誉に死ね』
を読む。
短刀をのどに突き立てようとしたとき、左手の戸が開き、スズキの腕が子供を蝶々さんのほうに押しやる。
蝶々さんは短刀を落とし、子供を抱きしめる。
いとしい子に別れを告げると、蝶々さんはアメリカの国旗と人形を子供の手に持たせて遊ぶように仕向け、そっと目隠しする。
それから短刀をにぎり、屏風のうしろに行く。短刀の落ちる音が聞こえ、かけられていた白い布が屏風のうしろに消える。
蝶々さんは床を這って屏風の外に出る。その首には白い布がまかれている。
か弱い微笑を浮かべ子供に手をのばし、傍らにすりより、最後の力を振り絞って抱こうとするが、がっくり倒れる。
そのとき外からピンカートンが蝶々さんを呼ぶ声が聞こえ、右手の戸が激しく開けられる。
ピンカートンとシャープレスが駆け寄ると、蝶々さんは目を開け、弱々しく子供を指差して息絶える。
ピンカートンはひざまずき、シャープレスは目隠しされた子供を抱き上げ、すすり泣きながらキスをする。