ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト 作曲

歌劇 ≪罰せられた放蕩者あるいはドン・ジョヴァンニ≫ より

カタログの歌


Wolfgang Amadeus Mozart ≪IL DISSOLUTO PUNTO o sia IL DON GIOVANNI≫ KV527

第1幕第2場 第4曲 アリア
主人の好色ぶりをメモ帳を見ながら数え挙げ、憤慨するエルヴィラをあきらめさせようと従者レポレッロが努力奮闘するアリア。

 <イタリア語歌詞> <日本語歌詞>
Madamina, il catalogo è questo
(Leporello)
可愛い奥様、これが目録(カタログ)です
(レポレッロ)
マダミーナ   イル カターロゴ エェッ クエスト
Madamina, il catalogo è questo,
ねえ 奥さん この本ですよ
デッレ ベッレ  ケ アモォ イル パドロン ミーオ
delle belle che amò il padron mio,
すなわち 恋の記録
ウン カターロゴ エッリ エェッ ケ オッ ファッティーオ
un catalogo egli è che ho fatt'io;
作者はこのわたしだ
オッセルヴァーテ レッジェーテ コン メ
osservate, leggete con me,
なんなら読み上げて
オッセルヴァーテ レッジェーテ コン メ
osservate, leggete con me.
みましょう どうですか
   
イニターリア セイチェント エッ クワランタ
In Italia seicento e quaranta;
イタリアでは 六百四十
イナルマンニャ ドゥエチェント エッ トレントゥーナ
in Alemagna duecento e trent'una;
ドイツでは 二百三十人
チェント イン フランチャ イン トゥルキーア ノバントゥーナ
cento in Francia, in Turchia novant'una;
フランスで百人 トルコじゃ九十
マ  イニスパンニャ  マ イニスパンニャ ソン ジャァム ミッレ エッ トレ
ma in Ispagna, ma in Ispagna son già mille e tre.
スペインでは千三人のおんなを
ミッレ エッ トレ  ミッレ エッ トレ
mille e tre, mille e tre!
千三人 千三人
   
ヴァン フラッ クエステ コンタディーネ
V'han fra queste contadine,
いなかのむすめや
カメリエーレ エッ チッタディーネ
cameriere e cittadine,
まちのおとめたち
ヴァン  コンテッセ   バロネッセ
v'han contesse, baronesse,
女中も貴族も
マルケズィーネ   プリンチペッセ
marchesine, principesse,
みにくいおんなも
エッ ヴァン ドンネ  ドンニ グラード
e v'han donne d'ogni grado,
きれいな少女も
ドンニ  フォルマ  ドンニ エタァ
d'ogni forma, d'ogni età.
ばあさんさえも
ドンニ  フォルマ  ドンニ エタァ
d'ogni forma, d'ogni età.
目についたすべての
   
イニターリア セイチェント エッ クワランタ
In Italia seicento e quaranta;
イタリアでは 六百四十
イナルマンニャ   ドゥエチェント エッ トレントゥーナ
in Alemagna duecento e trent'una;
ドイツじゃ 二百三十人
チェント イン フランチャ イン トゥルキーア ノバントゥーナ
cento in Francia, in Turchia novant'una;
フランスで百人 トルコで九十
 マ  マ   マ イニスパンニャ
ma, ma, ma in Ispagna,
さて スペインでは
マ  イニスパンニャ ソン ジャァム ミッレ エッ トレ
ma in Ispagna son già mille e tre.
おどろくなかれ 千三人
ミッレ エッ トレ  ミッレ エッ トレ
mille e tre, mille e tre!
千三人 千三人
   
ヴァン フラッ クエステ コンタディーネ
V'han fra queste contadine,
いなかのむすめや
カメリエーレ エッ チッタディーネ
cameriere, e cittadine,
まちのおとめたち
ヴァン  コンテッセ   バロネッセ
v'han contesse, baronesse,
貴族の令嬢
マルケズィーネ   プリンチペッセ
marchesine, principesse,
いやしい下女にも
エッ ヴァン ドンネ  ドンニ グラード
e v'han donne d'ogni grado,
みにくいおんなも
ドンニ  フォルマ  ドンニ エタァ
d'ogni forma, d'ogni età.
ばばあでさえも
ドンニ  フォルマ  ドンニ エタァ
d'ogni forma, d'ogni età.
目につくすべて
ドンニ  フォルマ  ドンニ エタァ
d'ogni forma, d'ogni età.
手当たりしだい
   
ネッラ ビオンダ エッリ アッ ルザンツァ
Nella bionda egli ha l'usanza,
金髪はいいものさ
ディ ロダル ラ ラ ジェンティレッツァ ネッラ ブルーナ
Di lodar la la gentilezza, nella bruna,
とび色のおとめには やさしく
ラ コンスタンツァ ネッラ ビアンカ ラ ドルチェッツア
la costanza, nella bianca la dolcezza.
この身はやつれたあですがた
ヴォル ディンヴェルノ ラ グラッソッタ
Vuol d'inverno la grassotta,
デブは冬向きで
ヴォル デスターテ ラ マグロッタ
vuol d'estate la magrotta.
春はやせぎすだ
エッ ラ グランデ マエストーザ エッ ラ グランデ マエストーザ
è la grande maestosa, è la grande maestosa,
大柄は大味で たまにはよろしいが
ラ ピッチーナ ラ ピッチーナ ラ ピッチーナ
la piccina, la piccina, la piccina,
いちばんいいのは 小柄の
ラ ピッチーナ ラ ピッチーナ ラ ピッチーナ ラ ピッチーナ
la piccina, la piccina, la piccina, la piccina,
小柄の 小柄の 小柄の 小柄の
ラ ピッチーナ ラ ピッチーナ
la piccina, la piccina,
小柄のおんなさ
エェ オニョル ヴェッツォーサ エェ オニョル ヴェッツォーサ
è ognor vezzosa, è ognor vezzosa,
ずいぶんな数になるよ
エェ オニョル ヴェッツォーサ
è ognor vezzosa
数になる
   
デッレ ヴェッキエ ファッ コンクイスタ
Delle vecchie fa conquista,
記録の はなしのたねは
ペル ピアチェル ディ ポルレ イン リスタ
pel piacer di porle in lista;
たいへんな おばあさん
スゥア パッスィオン プレドミナンテ
sua passion predominante
胸を焦がすのは
エッ ラ ジョーヴィン プリンチピアンテ
è la giovin principiante.
おぼこのむすめさ
   
ノン スィ ピッカ セッ スィーア リッカ セッ スィーア ブルッタ
Non si picca, se sia ricca, se sia brutta,
身分 家柄 そんなもの
セッ スィーア ブルッタ セッ スィーア リッカ
se sia bella; se sia ricca,
どうでもいいのだ
ブルッタ セッ スィーア ベッラ
brutta, se sia bella;
おんなでありゃ
プルケェッ ポルティ ラ ゴンネッラ
purché porti la gonnella,
あらゆるおんなだ
ヴォイ サペーテ クエル ケッ ファ ヴォイ サペーテ
voi sapete quel che fa, voi sapete
さあ これを ねえ よく さあ ごらん
   
クエル ケッ ファ プルケェッ ポルティ ラ ゴンネッラ
quel che fa, purchè porti la gonnella,
さあ ごらん よくわかったでしょ
ヴォイ サペーテ クエル ケッ ファ ヴォイ サペーテ
voi sapete quel che fa, voi sapete
ドン・ジョヴァンニという紳士の
ヴォイ サペーテ クエル ケッ ファ ヴォイ サペーテ
voi sapete quel che fa, quel che fa,
悪事のかずかず みんな
クエル ケッ ファ ヴォイ サペーテ クエル ケッ ファ
quel che fa, voi sapete quel che fa.
ここに 書いてあるのだ


《直訳》
愛らしきご婦人! うちの主人が愛でた美女の目録(カタログ)とはこれのことです
あっしが作りましたカタログでして
ごらん下さい 一緒に読んでみるとしましょう

イタリアでは600と40人
ドイツでは200と31人
フランスでは100人 トルコで91人
おまけにスペインではもうすでに1000と3人ですよ!

この中には村娘も お手伝いも 町の女たち
伯爵夫人も 男爵夫人も 侯爵夫人も お姫さまも
ありとあらゆる地位の 格好の 年齢の女たちがおります

金髪の娘には あの方はいつも決まって、その優雅さを褒めそやし
黒髪の女には節操を 色白(白髪?)の女性にはその甘やかさを
冬のお好みはふとった女
夏のお好みはやせた女
大柄の女は堂々としていて 小柄の女はいつでも愛嬌たっぷり
ご年配を征服されるのは リストに彼女らをいれるお楽しみのため
彼が情熱をかたむけるのは 若い初物よ
金持ちだろうと 醜かろうと 美しかろうと あの方はおかまいなし
つまりスカートさえはいていれば
あの方のなさることは あなたもご存知のはずでして

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

享楽の愛を追及するスペインの伝説的人物を主人公としたモーツァルトの白眉の傑作。
スペインに古くから伝わる「ドン・ファン」の物語に題材をとっており、ドン・ジョヴァンニは、ドン・ファンのイタリア語読みです。
ファウストと並ぶ伝説的人物、ドン・ファンはすでに13、14世紀頃から語り継がれていたようですが、17世紀に入ってから
ティルソ・デ・モリーナというスペインの劇作家によって戯曲化され、1665年、モリエールの手によって「ドン・ジュアン、別名、石の饗宴」が 発表され、ヨーロッパ中に広められました。
何人もの作家がこの題材に取り組んでおり、ロレンツォ・ダ・ポンテはそのなかのジョヴァンニ・ベルターティの 「石像の招客」 を土台とし、 モリエールらのを参照して台本を作りました。
1781年1月、前作 《フィガロの結婚》 が大成功をおさめ、熱狂的に湧きかえっているプラハでは、同オペラを上演していたボンディーニというイタリア・オペラの インプレサーリオ(興行主)からモーツァルトにプラハで初演するための新作オペラの依頼が出されました。
題材にドン・ファン伝説を選ぶことを提案したのはウィーンでベルターティの台本を読んでいたダ・ポンテであるといわれており、 モーツァルトも乗り気で、1787年4月に台本が完成すると、9月にはおよその作曲も完成しました。
予定では1787年10月14日にマリア・テレジアの婚儀を祝って上演することになっていましたが、 歌手の練習不足のため24日に延期され、さらにその日も歌手の病気で伸び、ようやく29日にプラハ歌劇場で初演を迎えました。
モーツァルト自身の指揮によって行われた初演は、かなり実力のある歌手たちがそろい、前作を上回るほどの大成功をおさめました。
登場人物のあらゆる種類の性格がからみあうことによって人間社会の縮図が見事に描き出されているため、 歌い手たちは役柄の個性を出すと同時に全体のドラマを構成するためのアンサンブルの力量も要求されます。
《魔笛》 のようなはっきりした哲学は打ち出されていませんが、人間的な感情と性格によって、 音楽による性格劇の最高の型を示しており、初演から今日まで、すべてのオペラに優るすばらしい音楽と性格とを備えた最高のオペラとの評価を受けています。


「罰せられた放蕩者あるいはドン・ジョヴァンニ」 のあらすじ

第1幕 ATTO PRIMO
女とあれば愛してやまないスペインの若き貴族ドン・ジョヴァンニは、かねてから目をつけていた騎士長の娘ドンナ・アンナの館に忍び込んだ。
従者のレポレッロは外で見張りをしながら、女とお楽しみであろう主人と自分の身を比べ、人に仕えるのはまっぴらだと愚痴をこぼす。
誰か来る様子に身を隠すと、正体を隠しているドン・ジョヴァンニを逃がしまいと腕を強くつかんで、ドンナ・アンナが人を呼ぼうとしている。
彼女の父である騎士長が来て、ドンナ・アンナが加勢を頼みに館に戻った間に決闘になり、騎士長に致命傷を負わせたドン・ジョヴァンニとレポレッロは逃げ去る。
ドンナ・アンナが婚約者のドン・オッターヴィオや召使いを連れて戻ってくるが、そこにあるのはすでに冷たくなった父親の遺骸。
錯乱状態からさめたドンナ・アンナはオッターヴィオに復讐を誓わせる。

ほかに誰もいないのを確認したレポレッロはジョヴァンニに苦言を呈するが、一喝される。
愛の遍歴を記したリストをレポレッロが作っているのを知ったジョヴァンニが次に 付け足すことになろう相手のことを話しているとき、いちはやく美女がやってくるのに気づき、様子をうかがう。
どうやら美女は男に棄てられたらしい。さっそくなぐさめようと声をかけるが、 なんとそれは自分の妻、ドンナ・エルヴィーラだった。
ドン・ジョヴァンニは結婚式の3日後、彼女から逃げてしまったのだ。
エルヴィーラのうらみつらみに辟易したジョヴァンニはレポレッロにそのときの理由を説明しろといい、隙をみて逃げ去ってしまう。
レポレッロはエルヴィーラにジョヴァンニが愛した女性たちのリスト(カタログ)を見せて、主人の好色ぶりを披露し、あきらめるように言って去る。
ひとり残されたエルヴィーラは怒り、復讐を誓う。

農民の婚礼の場に通りかかったジョヴァンニはさっそく花嫁のツェルリーナに食指を動かし、 ほかの娘に声をかけているレポレッロに農民たちを館での宴に招待するよう命じ、ツェルリーナだけは自分が連れて行くという。
花婿のマゼットは反対するものの、ツェルリーナが心配せずに行ってといい、騎士であるジョヴァンニにも逆らえず、納得できぬまま先に行く。
邪魔者がいなくなるとジョヴァンニはさっそく口説きはじめ、その気になったツェルリーナと別荘のほうに向かったとき、 ドンナ・エルヴィーラが登場。
ドン・ジョヴァンニの本性を明かし、ツェルリーナを連れ去る。
ひとりになったドン・ジョヴァンニはドン・オッターヴィオとドンナ・アンナに出会う。
騎士長殺しの犯人を探しているふたりが助力を頼もうとしているところにまたエルヴィーラが現れる。
エルヴィーラはジョヴァンニを嘘つきだと言い、ジョヴァンニはあの女性は気がふれていると言うので、ふたりはどちらを信用していいものか迷う。
しかしジョヴァンニが去りぎわに言った言葉に、ドンナ・アンナはジョヴァンニこそ館に忍び込み、父を殺した男だと知る。
彼が館に忍びこんだときの一部始終をドンナ・アンナから聞いたオッターヴィオは信じられない思いだが、彼女のために真相をつきとめる決心をする。
レポレッロのところにきたドン・ジョヴァンニは彼がぬかりなく農民たちをもてなし、そのうえエルヴィーラをうまく外に閉め出したことを聞いて満足し、 さらに村娘たちと楽しむべく、踊りの宴を準備するようにいう。

庭ではマゼットがツェルリーナの浮気ぶりに怒るが、ぶってよ、マゼットと、しおらしい様子にうまく丸め込まれてしまう。
ドン・ジョヴァンニの声にマゼットは妻の貞節を確認するため身を隠す。
ジョヴァンニがツェルリーナに言い寄っているところでマゼットを見つけ、バツが悪くなったジョヴァンニはふたりを踊りに誘う。
仮面をつけたドンナ・エルヴィーラとドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオが舞踏会に招待され、ジョヴァンニの罪を暴くべく参加する。
舞踏会でのツェルリーナとジョヴァンニの様子にマゼットは嫉妬し、それぞれの思いを胸に、ジョヴァンニはツェルリーナと、レポレッロは無理矢理マゼットを躍らせる。
ジョヴァンニはなかば強引にツェルリーナを別室に連れ去ったものの、助けを呼ばれ、エルヴィーラたちがかけつける。
剣をレポレッロに突きつけ、従者に罪をなすりつけようとする様子に、そんなことでごまかせないぞとオッターヴィオたちは仮面をとって正体を明かし、 マゼットたちも一緒になって天罰がくだると迫るが、ジョヴァンニはこんなことで恐れはしないと言い放つ。

第2幕 ATTO SECONDO
殺されかけたことでお暇したいと申し出るレポレッロに、ドン・ジョヴァンニはあれは冗談だと言い、金の力で引き止める。
ドンナ・エルヴィーラの小間使いを次なる恋の相手と定めたジョヴァンニはレポレッロと服を交換して、エルヴィーラを別の場所へ連れ出すよう命じる。
エルヴィーラはジョヴァンニの裏切りを嘆いているが、心のなかでは深く愛しており、ジョヴァンニに甘い言葉をかけられると愛が戻ったと信じてしまう。
ジョヴァンニの格好をしたレポレッロは彼になりすまし、エルヴィーラと夜の町に出ていく。
ふたりを追い払ったジョヴァンニは窓の下で小間使いに向けてセレナーデを歌う。
そこへ武装した農夫たちを連れて、ジョヴァンニをやっつけようとマゼットがやってくる。
ジョヴァンニはレポレッロのふりをして、ほかの農夫たちを探しにいかせ、ひとり残ったマゼットから言葉たくみに武器を取り上げると、銃の背で叩きのめす。
マゼットが痛みに叫ぶ声にツェルリーナがやってきて、優しく介抱する。
一方、エルヴィーラと外に出たレポレッロはどういうわけかドンナ・アンナの館に迷い込んでおり、 なんとかして彼女から逃げようと扉を出ると、ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ、マゼット、ツェルリーナに出くわす。
オッターヴィオはレポレッロをジョヴァンニだと思い、殺そうとするが、ドンナ・エルヴィーラが恋人の命乞いをし、さらにレポレッロが正体を明かしたので、一同混乱する。
レポレッロは懸命にいきさつを説明して情けを求め、隙をついて逃げることに成功する。
今やドン・ジョヴァンニの悪行を確信したドン・オッターヴィオは彼を訴えることにし、みなの復讐を果たすことを約束する。

ツェルリーナがつかまえたレポレッロをナイフで脅して椅子に縛りつけ、ドンナ・エルヴィーラやマゼットを呼びに行くが、 戻ってくると姿がなく、椅子ごと逃げたあとだった。
マゼットはさっきジョヴァンニとおぼしき男から女性を救ったと話し、ひとり残ったエルヴィーラは裏切り者への復讐と同時に、 近いうちに彼に降り注ぐであろう天罰に哀れみを感じ、心乱れる。
ドン・ジョヴァンニと逃げてきたレポレッロが墓場で会い、ふたたび服を交換し、自分の服に戻る。
ジョヴァンニはさっき服を取り替えたおかげで、レポレッロの女に恋人だと勘違いされ、うまくいきかけたが、途中でばれて人も来たため逃げてきたことを いけしゃあしゃあと話してきかせる。
そのとき墓場にたつ騎士長の石像から声が響き、月の光で碑文、「我を死へと至らせし非道の者の復讐をここにて待つ」 を読んだレポレッロは恐怖に震えるが、 ジョヴァンニは石像を夕食に招待する。
石像はうなずき、ジョヴァンニとレポレッロは晩餐の準備をしに墓場から立ち去る。

ドン・オッターヴィオはドンナ・アンナに結婚をすぐにでもしようというが、父を失ったばかりの彼女は引き伸ばしを決意する。
広間では食事のしたくがすっかり整い、ジョヴァンニは料理を食べ、楽師たちが人気のオペラの音楽(もう飛ぶまいぞ、この蝶々<フィガロの結婚> など)を奏ではじめる。
レポレッロもつまみぐいしているところへ、ドンナ・エルヴィーラが取り乱した様子で入ってきて、生き方を改めることを真剣に望むが、ジョヴァンニはまったく意に介しない。
エルヴィーラは出ていくが、叫び声をあげて反対側から逃げ去る。
様子を見にいったレポレッロも叫び声をあげ、驚いて扉を閉める。
やがて扉がノックされ、レポレッロが震えて開けられないので、ジョヴァンニが扉を開ける。
そこには騎士長の石像が招きに応じてやってきており、今度はジョヴァンニを夕食に招く。
承諾の証に手を差し出すと、その手を握り、最後の機会だとして、生き方を悔い改めることを促すが、ジョヴァンニはきっぱりと拒絶する。
もはや時間がないと騎士長が姿を消すと同時に地面が揺れ、地下からくぐもった声が響き、あたりを包む地獄の業火がジョヴァンニを呑み込んだ。
やがて司法官とともに現れたドンナ・エルヴィーラやドンナ・アンナ、オッターヴィオ、ツェルリーナ、マゼットに、レポレッロは一部始終を話してきかせる。
共通の敵がいなくなった今、彼らはそれぞれの道を歩みだす。
復讐は終わったとドン・オッターヴィオは結婚を求めるが、ドンナ・アンナは1年待ってほしいといい、エルヴィーラは修道院に入ることを決め、
ツェルリーナとマゼットは家に帰り、レポレッロはもっと上等な主人をみつけに旅館へ行くことにする。
そして全員が、悪をなすものの末路は、必ずその生き方にふさわしいと古い歌を歌う。

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