フリードリヒ・フィリップ・ジルヒャー 作曲

ローレライ

Friedrich Philipp Silcher 1789〜1860   “Die Lorelei”
Heinrich Heine, 1797-1856
ハインリッヒ・ハイネ 作詞


 <ドイツ語歌詞>  <日本語歌詞>
イッヒ ヴァイス ニヒト ヴァス ゾル エス ベドイテン
Ich weiß nicht, was soll es bedeuten,
なじかは知らねど
ダス イッヒ ゾー トラウリッヒ ビン
Daß ich so traurig bin;
心わびて
アイン メルヒェン アウス アルテン ツァイテン
Ein Märchen aus alten Zeiten,
昔の伝説(つたえ)は
ダス  コムト   ミル ニヒト アウス デム ズィン
Das kommt mir nicht aus dem Sinn.
そぞろ身に沁(し)む
ディー ルフト イスト キュール ウント エス ドゥンケルト
Die Luft ist kühl und es dunkelt,
寥(さび)しく暮れゆく
ウント リューイッヒ フリースト デル ライン
Und ruhig fließt der Rhein;
ラインの流(ながれ)
デル ギプフェル デス ベルゲス フンケルト
Der Gipfel des Berges funkelt
入日に山々
イム アーベント ゾンネン シャイン
Im Abend sonnen schein.
あかく映(は)ゆる
   
Die schönste Jungfrau sitzet 美(うる)わし少女(おとめ)の
Dort oben wunderbar, 巌(いわ)に立ちて
Ihr goldnes Geschmeide blitzet, 黄金(こがね)の櫛とり
Sie kämmt ihr goldenes Haar. 髪の乱れを
Sie kämmt es mit goldenem Kamme, 梳(と)きつつ口吟(ずさ)む
Und singt ein Lied dabei; 歌の声の
Das hat eine wundersame, 神怪(くすし)き魔力(ちから)に
Gewaltige Melodei. 魂(たま)も迷う
   
Den Schiffer im kleinen Schiffe, 漕ぎゆく舟人
Ergreift es mit wildem Weh; 歌に憧れ
Er schaut nicht die Felsenriffe, 岩根も見為(みや)らず
Er schaut nur hinauf in die Höh'. 仰げばやがて
Ich glaube, die Wellen verschlingen 浪間に沈むる
Am Ende Schiffer und Kahn; 人も舟も
Und das hat mit ihrem Singen 神怪(くすし)き魔歌(まがうた)
Die Lorelei getan 謡うローレライ


《訳》
どうしてこんなに悲しいのか わたしはわけがわからない
遠いむかしの語りぐさ 胸からいつも離れない
風はつめたく暗くなり しずかに流れるライン河
しずむ夕陽にあかあかと 山のいただき照りはえて

かなたの岩にえもいえぬ きれいな乙女が腰おろし
金のかざりをかがやかせ 黄金の髪を梳いている
黄金の櫛で梳きながら 乙女は歌をくちずさむ
その旋律(メロディ)はすばらしい ふしぎな力をただよわす

小舟あやつる舟人は 心をたちまち乱されて
流れの暗礁(いわ)も目に入らず ただ上ばかり仰ぎみる
ついには舟も舟人も 波に呑まれてしまうだろう
それこそ妖しく歌うたう ローレライの魔のしわざ

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1824年、『帰郷』 と題す詩集の2番目にのせられている、「Ich weiss nicht was soll es bedeuten(何がそうさせるのかはわからないが)」 で始まる詩は、 1827年に 『歌の本』 におさめられ、フリードリヒ・フィリップ・ジルヒャー(ジルヘル)が、1838年に合唱曲として曲をつけて以来、 世界的に有名な歌となりました。
日本では明治42(1909)年発刊の 『女声唱歌』に近藤朔風の訳詞が載り、広く親しまれているドイツ歌曲です。
ローレライの “lore” は女名で水の妖精、“ley” はライン地方の方言で岩なので、「妖精の岩」 を意味し、
「ローレライ」 の名を持つ、ドイツ西部のライン河中流ヒンゲンとコブレンツ間の右岸に切り立つ高さ120mの大きな岩があるあたりは、 ライン河の難所として知られ、たくさんの船乗りが命を落としたといわれています。
「ローレライ」 とは、その岩山をしめすと同時に、この岩の妖精、あるいはセイレーンの一種でもあり、ドイツの伝承に由来する、 多くの伝説群にしばしば結びつけられています。
後期ロマン派のクレメンス・フォン・ブレンターノ(1778-1824) の18番にも及ぶ詩「魔女のロレ・ライ」(Lore Lay die Zauberin)から生まれた、 昔、この岩の上に憩うひとりの美しい水の精が、いつも黄金の櫛で金髪をときながら不思議な歌を歌っていた。
ライン河を下って航行する舟人がその歌声に聞きほれ、舵を取るのも忘れ、岩に舟を打ちつけて淵に沈んでしまうという伝説には、 いくつかの形があり、多くの話に共通するものとしては、ローレライとは不実な恋人に絶望してライン河に身を投げた乙女であり、 水の精となった彼女の声は漁師を誘惑し、破滅へと導くというものです。
ローレライの伝説は、ハイネの詩により有名になりましたが、ヒットラー時代のドイツではハイネがユダヤ人だったために歌唱が禁止されていました。

 THE LORELEY (英語歌詞)  《意訳》 ローレライ
I know not what it presages,
That I am so sad to-day;
A legend of former ages
Will not from my tho'ts away.
The air is cool and it darkles,
The Rhine flows calmly on,
The peak of the mountain sparkles
In the glow of the evening sun.
今の悲しい予感が
何なのか分からない
いにしえの伝説が
頭から離れない
空気は涼しく 薄暗い
ライン河の流れは穏やかで 
山の頂上は
夕日の赤い輝きにきらめいている
The most beautiful maid is reclining
On the cliff, so wondrous fair,
Her glorious jewels are shining,
She is combing her golden hair;
With a golden comb she combs it,
And sings a song thereby,
That thrills with its mystic meaning,
And powerful melody.
並ぶものなき美しい乙女が絶壁のうえに
腰掛けている 息を飲むほど美しく
壮麗な宝石が輝き
彼女は黄金の櫛で
自身の黄金の髪をくしけずる
そうして歌を歌う
神秘的な意味がこめられた
魔力みちた調べに心が揺れる
It seizes with wildest yearning,
The boatman, entranced in his skiff;
He sees not the treacherous breakers,
He gazes alone on the cliff.
And soon will the waves engulf them,
Both boat and boatman strong.
For thus in her toils hath she bound them,
The Loreley with her song.
強い憧れにとりつかれ
舟人は小舟のなかで恍惚とする
彼は危険な(暗礁を示す)砕け波を見ずに
絶壁の上だけを見つめる
じきに激しい波が彼らを飲み込むだろう
人 舟 もろともに
こうして彼女の網のなかに彼らはとらえられる
歌うローレライに

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