パーティ会場を抜け出して、私たちは夜の湖にやってきた。
高くのぼった月がとてもきれいで、湖面は鏡のように澄んでいた。
あっ! 思わずあげた小さな声にナオジ様が素早く振り向いた。
「どうかしましたか? !?」
私の視線を追ったナオジ様の視線もまた湖に釘付けになった。
そこには以前私が湖で記憶を失う直前に見た女の人が映っていた。
でも今の彼女は以前とは違って、ひとりではなく、哀しげな表情を浮かべてもいなかった。
となりには手を取り合った男の人がいて、幸せそうな笑顔で私たちを見上げていた。
! すぐに二人の姿はさざなみにかき消えてしまったけど、
あの二人が決して幻でなかったことは今の私たちには分かっていた。
「どこにいようと、どんなに姿が変わろうと、自分はあなたを見つけ出せます」
ナオジ様は胸のコサージュを抜くと、かがみこんで、水面にそっと浮かべた。
過去の自分たちに手向けた花は月光の湖面を渡っていく。
立ち上がってまぶしそうに月を見上げたナオジ様は、私を見つめて、静かに告げた。
「あなたと会うたびに、自分の思いは募る一方です。狂おしいほどに。
これほどの熱い感情が、自分にあるとは思いませんでした。
あなたへのこの気持ちを、自分には抑える事ができません。
例え幾たび生まれ変わっても・・・。
この身が朽ち果てても、きっと自分のあなたへの想いは変わらないでしょう」
「ナオジ様・・・」
「前世と同じように、今生も戦乱の兆しが見えます。ですが」
ナオジ様は私の手をとった。
「命を賭してあなたを守る・・・。その言葉に偽りはありません。
あなたに辛い思いは、一生させないと誓います。 貴女を、愛しています」
「私もです。ナオジ様、お慕いしています。心から」
手が引き寄せられ、月に照らされたふたつの影は近づいていく。
湖の照り返しで輝くナオジ様の黒い瞳に吸いこまれそう。
月が雲に隠れ、再び姿を現したとき、
月光は口付けを交わしている私たちに優しい光を投げかけた。
それはまるで聖なる誓いを見届けた祝福のように。
Mein Lieber 悠久の時を越えて巡りあえた運命の人。
夢の続きを、途切れた前世の先を、今度こそあなたとともに歩んでいける。
* * * * * * * * * *
優美なる二年間の記憶を胸に、私たちは 『ローゼンシュトルツ』
“薔薇の誇り” と呼ばれる学園を卒業した。
そして二人は永遠に一つの物語を紡いでいく・・・。
Ende |
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