CHAPTER 3 春を奏でる姫 |
「ここは・・・?」 カイルは自分のいるところをぐるりと見渡した。 今、立っているのは神殿のような建物の中だった。 広間のような感じで視線をめぐらせば簡単に全体が一望できる。 完全に閉じられた空間だが、 なぜか明るく開放感があった。 ドーム型の高い天井を支えている何本かの白い柱には ところど ころ緑のツタが這い、天井まで伸びていたが、 それらはまるで意図されたかのように美しい紋様を作り出していた。 華やかさや荘厳さはないけれど、安らぎに満ちた不思議な空間。 敷き詰められた石畳の中央には小さな噴水がしつらえてあり 、 今でもこんこんときれいな水が湧き出ている。 奥の正面の一段高くなった台座には女性の石像がたっていた。 カイルはゆっくりとそちらへ歩いて行った。 なぜか胸がどきどきしてくる。 石像は大きなつぼみの花を大事そうに両手で抱いた 可憐な女性のものだった。 優しい眼差しはいとおしそうに腕の中の花に注がれている。 「痛っ!」 突然、激しい頭痛がカイルを襲い、崩れるようにその場にうずくまった。 苦痛にうめきながらも脳裏には ひとりの女性の姿が鮮やかに映しだされていた。 新緑の中にたたずむ可憐な女性。 長い長い鳶色の髪がそよ風に揺れ、繊細な輝きを放つ若葉色の瞳が 彼を見つめていた。 「エ・・レノア・・」 異変が起きたのはそのすぐあとだった。 カイルの頭痛が嘘のようにひいたかと思うと、 石像の前の空間がゆらぎ、 二重写しのように像から女性の幻影が浮かびあがった。 それは石像の女性の姿そのままに、 しかし石像にはないたおやかさがあった。 宝石のような緑の瞳は、彼女が純粋すぎて ささいなことで傷ついてしまう 脆い心の持ち主だということを容易に教えてくれた。 呆然と見上げるカイルを見つめ、女性は口を開いた。 「あなたをずっと待っていました。お願いです。 どうかあの方をお救いください 」 強制さなどみじんもないか細い声。 エメラルドの瞳が哀しげにまたたいた。 「あの方を救うって、どういうことですか? あなたは・・・?」 「私は・・・エレノア。あの方をお救いできるのはあなただけなのです」 エレノアはカイルの方へ手を差し伸べる。 異変を感じ、カイルはベルトにゆわえてある次元袋に目を向けた。 「!?」 中にしまってある剣が強く反応している。 直接触れていないにもかかわらず、 剣が高揚しているのがはっきり伝わってきた。 レイルと会ったときも剣が反応したが、 それとはくらべものにならないほどの強さ。 ついには袋が開き、剣の柄が勝手に飛び出してきた。 あまりのことに戸惑いながらも、 再びエレノアを見上げたカイルの視線が釘付 けになった。 蒼く煌めく優美な剣。 彼女の両手には いつのまにか一振りの剣があった。 細身の美しい長剣は しっとりと水を含んでいるかのように つややかにその身を飾り、 薄青のもやのような輝きに包まれていた。 柄には青い宝石がはまり、 それを囲む流麗な装飾は華美ではない、 洗練された気品がある。 一見、宝飾品のように見える長剣は さやにおさめられたままだったが、 刃を見なくとも素晴らしき力を秘めた魔法の剣だというのは 一目瞭然だった。 「あなたの剣も・・」 エレノアの持つ剣のあまりの見事さにみとれていたカイルは、 はっと視線を戻 した。 「これは!?」 思わず声が漏れる。 |
|