連合軍と合流した、政宗さん、幸村さんは切り立った崖を飛び越え、険しい岩道を通るルートを選んだ。
足元の悪い急勾配を一気に駆け下りる。

「ちょいと無謀だが、これで本能寺から安土へ戻る織田の軍勢の前に出られる」

馬のとなりを駆ける猿飛佐助が言う。
腕組みしたまま馬に跨っている政宗さんが、ちらりと目を向けた。

「先回りしたところで、挟まれちまえば意味がねえ」

「そこはお任せあれ、ってね」

猿飛佐助の体は滑空するように、横道へそれていった。

「政宗殿」

「ん?」  今度は逆側にいる幸村さんに目を向ける。

「もしや貴殿はこうなることを見越して・・・
ふさぎこんでいた某を鼓舞するために、あのとき伊達軍を」

甲斐の屋敷で、伊達軍の解散を宣言したときのことが脳裏に浮かんだ。
幸村さんの首にかかっている六文銭をつかんで、突き放した政宗さん。
伊達軍を解散して、幸村さんとふたりで来たことが今につながっている。

「どいつもこいつも命の賭け時ってやつを分かってやがった」

政宗さんの顔に笑みがよぎる。それにつられるように幸村さんも笑った。

「大所帯はあんまり好きじゃねえが、一度くれえ、こんなド派手な party も悪くねえ。
 Are you ready, guys!」

「Yeah!」

「Show guns up!」

「Yeah! ・・・えっ?」

伊達軍の皆が驚いて振り返った。
武田、上杉・・・ほかの軍の人も政宗さんの声にいっせいに応えている。
「おーっ!」 じゃなく、「Yeah!」 で。

「一気に蹴りをつけるぜ! 安土の城が魔王の墓場だ!」

「温情なき大将に断じて明日は渡せぬ! 魔王に渡すは引導のみ!」

「Yeah!」  幸村さんの言葉にも皆が応える。

声がこだまし、ほら貝が鳴り響いた。

「上出来だ! Psyche up guys!」

「Yeah!!」

・・・。 複数の軍勢を見事にまとめ上げ、鼓舞する政宗さんを見ながら、私のなかである決心ができていた。

! 突然、離れたところから爆発音が聞こえた。
土煙が山の向こうで上がっている。
あの方向は、おそらく猿飛佐助が織田軍の足止めのために、谷にかかっている橋を爆破したのだろう。
これで本能寺から引き返してくる織田軍は大きく迂回することを余儀なくされる。
挟み撃ちにされる危険性はなくなった。
だけど・・・

「なんと」  兵士たちがどよめく。

安土城の城門の前で、連合軍は完全に足止めをくっていた。
城門を爆破したはず、なのに、びくともしない。

「門兵のひとりも置いてねえわけだぜ」   政宗さんがつぶやく。

「まさに難攻不落。鉄壁の城砦なり。
 政宗殿・・・ん、あっ!」

何気なく振り向いた幸村さんは目を見開いた。
政宗さんは左わき腹を押さえていた。

「長篠での傷がっ!?」

「ちょいと馬に揺られすぎた」 

傷口を押さえた手には血がついていたのかもしれない。
その手を見たあと、ぎゅっと握り締めた。

「すぐに手当てを」

「Lovin' it. ガキの頃から痛みには慣れてる。
それよりどうやってこの城に入りこむかだ・・・」

ヒュー!  そのとき花火みたいな音が聞こえた。
皆が振り向く中、遠くからいくつもの光の玉が打ちあがり、こちらに向かってくる。
夜空を流れるいくつもの光の帯・・・きれい、なんて思っているヒマはなく、着弾し、あちこちで爆発が起こった。

「Shit! 魔王の新しい武器か!?」 

「なんという破壊力!」  顔の前に出した腕で爆風をさえぎりながら、幸村さんが目をこらす。

着弾したあとには、大きな穴が開いていた。

「筆頭! あれは湖の、はるか向こうから飛んできてますぜ」

湖の上に浮かぶ船から次々と発射される砲弾は、安土城の鉄壁の城壁を砕いた。
もしかしてこれは、敵襲ではなく援護射撃?

「政宗殿!」

「Ha! どうやら西に味方ができたらしいな。
 しかし、相当無茶しやがる野郎だ」

「も、もしや」  幸村さんが振り向く。

「突っ込むぜ、真田幸村!」

先に馬を走らせた政宗さんのあとを、幸村さんが後ろを見やりながらも、すぐに追いかける。

「お願いします、筆頭!」
「おふたりを信じてます!」
「いけえ! 真田の兄さん!」
「任せやしたーっ!」

皆が見守る中をふたりは馬で駆けてゆく。

「あとはお頼み申す!」
「Trust us!」

「Yeah!」

ふたりの声に、軍全体が応えた。


「小賢しくも攻め来るか」

玉座に座す織田信長は傲慢な笑みを浮かべていた。
立ち上がり、マントをひるがえす。

「滅せよ!」

城から一斉に織田軍が飛び出してきて、城壁を突破した連合軍を迎え撃つ。
ついに天下を賭けた戦いの幕が切って落とされた。
政宗さんと幸村さんにとって、足軽がいくら押し寄せようと敵ではない。
群がる雑兵を吹き散らし、上空にそびえる天主を目指して突き進む。


「ごめんなさい、お兄様」

天主から外を眺めていた信長の背後に、よろめくようにお市さんが現れた。

「市、濃姫さまを・・・」

廊下に濃姫が倒れている。
たぶん生きてはいないだろう。

「はっ! 事も無し。 アレもその程度の女であったか」

「それだけ、なの?
 兄様のことを心から、命をかけて愛してくれた人なのに・・・」

「人形が余を諭すか」  外を見たまま、振り返ろうともしない。

「違う、人形なんかじゃ・・・」

「愚妹よ、ならば、わが身を貫いてみよ」

ようやく振り向いたその表情は薄い笑みをたたえ、濃姫が死んだことに対する何の感情も窺えない。
武器の双薙刀を構えたものの、お市さんの手は震えていた。

「違う・・・殺したいんじゃない。もうやめてほしいの。
 目を、覚ましてほしいの」

「何を惑うか。余を刺し貫く以外、貴様に途は無し」

「ごめんなさい!」

双薙刀が重い音を立てて床に落ち、お市さんは両手で顔を覆った。

「兄様・・・かわい、そう・・・。兄様、兄様・・・」

泣きぬれたまま、ふらふらと信長に近づいていく。

「愚かな女よ」  信長はショットガンの銃口を向けた。

!!

政宗さんと幸村さんが天主にたどりついた瞬間、銃声が鳴り響いた。
目を見開いたふたりの前で、信長に撃たれたお市さんがゆっくりと倒れていく。

「魔王の・・・妹」

「あ・・・独眼・・竜・・・」

わずかに顔を向けたお市さんの目からはとめどなく涙がこぼれていたけれど、穏やかな表情が浮かんだ。

「ありがとう・・・長政さまを、悼んでくれて。
あなたと、戦えて・・・長政さま、きっと・・・」

お市さんの瞳が閉じる。
ふたりは言葉を失い、しばらく立ち尽くしていた。

「魔王のオッサン!」

白煙の立ちのぼる銃口をおろした信長の前に政宗さんが歩み出る。

「アンタ、それでいいのか」

「うつけがふたーり」  信長は冷酷に笑んだ。

「余の首、取れると思うて参ったか・・・。笑止ッ!!!」

並みの者なら逃げ出す気迫がふたりを襲う。
その顔に哀れみや兄妹の情など欠片もない。
政宗さんは刀を抜いて身構えた。

「アンタを叩っ斬る前に聞いておきたいことがある!」

幸村さんも槍を構える。

「アンタ、誰だ!?」

幸村さんが政宗さんに目を向けた。
刀を構えたまま、隻眼が信長を見つめる。

「オレには・・・オレのこの目には、昔と今、そしてこれからの世に跋扈するすべての邪気と魔性が人の形に固まった化け物としか映らねえ!」

「余は、織田信長」

重々しい声が響く。
光差す絢爛なステンドグラスを背にする姿は神のごとき威容を持っていた。

「第六天より来たりし、魔王なり!!」

マントがひるがえり、覇気がふたりを圧倒する。

「魔王! それがただの通り名でなかったこと、よく分かり申した!」

「愚かなる頭(こうべ)ふたーつ。揃って盃(さかずき)にしてくれよう!」

「No kidding! 盃なら自前で頼むぜ!」

「そのよどみ驕った心で、非道の限りを尽くす両の腕! 今、ここに我らが封じてくれる!」

「安い座興よ」  相手が二人でも傲慢な態度は崩れない。

「てやーっ!!」  

声を上げて、同時に向かってくる政宗さん、幸村さんを前に信長は足元に剣を突き立てた。
地がうねり、厄災の黒き棘が地面から突き立つ。

「はぁっ!!!」

思わず足が止まったふたりに向けて、間髪いれず、引き抜いた剣で薙ぎ払った。
マントが大きくひるがえり、圧倒的な力がふたりを壁にたたきつける。
壁にめりこみ、動かない彼らを一瞥し、魔王は高らかに宣告した。

「愚者どもよ、ひれ伏せい!!
 余が直々に比良坂へ送ってくれようぞっ!!」


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<おまけ・・・伊達政宗の英語セリフの訳や意味など>

Are you ready, guys!    (おめえら、準備はいいか!)

Show guns up!    (本気を見せてやれ!)

Psyche up guys!    (盛り上がろうぜ!)

Lovin' it. ・・・ 直訳は、「大好き」 ですが、この場合、昔から慣れ親しんでいる 愛すべきもの(だから平気だ) という意味かと思われます。

Trust us!    (オレたちを信じろ!)

No kidding! ・・・ 「冗談じゃねえ!」 「ふざけんな!」