「う・・・
うう・・・」
「あ・・・」
「・・・あれ・・・?
こ ここは・・・」
フィールはきょろきょろと部屋のなかを見回した。
見たこともない部屋だった。
きれいに片付いた部屋は広くはないが明るく、整然と置かれた机や棚の上には見たこともないものが置かれている。
机の向こうの四角い窓からは晴れた空と木の緑が広がっていた。
? ぼくは・・・ 穴に落ちたはずなのに。
「やっと起きたか?」
「ねぼすけなんだから・・・」
「え?」
聞き覚えのある声に振り向いたフィールは、ほっと安堵の色を浮かべた。
よかった。 レオンとアルミラ、ふたりとも無事だったんだ。
「おはよう フィール。
よく眠れたみたいね」
「でも ちょっと寝すぎだぞ。
もう昼飯の時間も過ぎちまったぜ」
「え? ええ?
アルミラ・・・レオン?」
大きく見開かれた瞳が二人を見つめた。
何かが違う。
このありえないぐらいの爽やかさはいったい・・・。
「ああ 寝ぐせついてる!」
さも重大なことを発見したように大げさな声をあげたアルミラは、仕方ないなあというふうに苦笑した。
「もう だらしないなあ。
ほら 直してあげるから じっとして?」
「え・・・
あ・・・あの・・・
アルミラ・・・?」
あせりまくるフィールをよそにレオンがすねたように言った。
「あー いいなあ。
今度 おれの寝ぐせも直してくれよ」
「ダ・メ・よ。
だって レオンの髪って 寝ぐせついてもわかんないじゃない」
「あっはっはっはっは!
こりゃあ一本取られたな!」
「ふふふふ・・・」
「・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ど
どうしちゃったんだよ!?
二人とも!」
驚きを通り越して硬直していたフィールがやっと叫ぶが、アルミラとレオンは不思議そうな目を向けただけだった。
「・・・どうって?」
「フィールこそ なんか変よ?
大丈夫?」
「・・・・・・・・・」
逆に心配そうに見つめられ、困ったそのとき、
「大変だ大変だ!」
「ん?」
「トト・・・?」
もったりとした赤い体に黒い羽根を生やした猫。
駆け込んできたのは、まさしくトト、だったが、やっぱりフィールの知っている不遜な性格とはだいぶ違うようだった。
「大変だよ!
村の子供たちが さらわれちゃった!」
「なんだって!?」
「テオロギアの仕業ね!?」
「え・・・っと・・・」
一気にシリアスになるレオンとアルミラについてゆけない。
「子供を狙うなんて卑怯な!
行くぞ!
アルミラ! フィール!」
「ええ 出動よ!」
「・・・出動・・・?」
二人に続いて部屋を飛び出したトトが、ぽつんと部屋に取り残されているフィールに気づいて振り返った。
「なにしてるんだよ、フィール!
キミも早く来るんだ!」
「え? え? え?」
わけが分からないままに、フィールは二人と一匹のあとをついていく。
滅神戦隊 オズレンジャー
出動!オズレンジャー!子供たちの明日を守れ
「えーん えーん
こわいよー」
「ギッギッギッギッギ!
キリキリ歩くギア。
もたもたするなギア」
「えーん えーん
おうちに帰してよー」
泣いているドロシーに怪人が一瞥をくれた。
「ギッギッギッギッギ!
今のうちに好きなだけ 泣くギア! わめくギア!
もうじき おまえたちの口からは
我らが魔人王陛下を崇める言葉しか出なくなるギア!」
「えーん えーん
そんなのヤだよー」
村の少女の泣き声をかき消すかのように怪人が楽しげに笑う。
「イヤがってもムダギア!
おまえたちは これから 我ら 秘密結社テオロギアの忠実なしもべに生まれ変わるギア!
そして偉大なる魔人王陛下のために 一生 尽くして尽くして 尽くしまくるんだギア!!
ギ〜ッギッギッギッギッギ!」
「そうはさせんぞ!!」
通りに颯爽とレオンの声が響いた。
「ギギッ!?」
「ああっ! お兄ちゃん!!
助けに来てくれたのね!?」
「ド ドロシー!?」
どうしてこんなところにドロシーが?
だがフィールが驚いている間にも、まわりではどんどん話が進んでいく。
「いたいけな子供たちの未来を奪うなんて わたしたちが許さないわ!!」
「ギギッ貴様ら 何者だギア!?」
「みんな! オズレンジャーに変身だ!」
トトの声に、レオンとアルミラが勢いよく応えた。
「おうっ!!」
「了解!!」
「お・・・
おずれんじゃあ・・・?」
???
立ち尽くすフィールの横で、ふたりは声も高らかに叫んだ。
「チェンジ!
オーバージーニス・イエロー!!」
「チェンジ!
オーバージーニス・ブルー!!」
まばゆい光が彼らを包んだあと、黄金のライオンを思わせるヘルメットをかぶったレオンと
青色の金属質の麦わら帽子らしきものをかぶったアルミラの姿があった。
え??? かつてフィールの頭がこれほど混乱したことがあっただろうか。
しかし状況を理解する間もなく、トトがじれったそうにせかした。
「フィール! どうしたんだよ!?
キミも早く!
チェンジ・
オーバージーニス・レッドだ!」
「ちぇ・・・ちぇんじ
おーばーじーにす・・・れっど??」
おうむ返しの棒読みの声だったが、それでも効果はあったらしい。
光に包まれ、消えたときに、フィールは赤色のとんがり帽子に似たヘルメットをかぶっていた。
「オズ・ライオン!!」
「オズ・カカシ!!」
「え? え?」
戸惑うフィールにまたもトトがせきたてる。
「フィール!
オズ・ブリキだろっ!!」
「お・・・
おず・ぶりき!・・・??」
「滅神戦隊! オズレンジャー!!」
「・・・もう どうにかして・・・」
勢いにのって声をそろえてしまったフィールだが、とたんに恥ずかしさがこみ上げてきて、たまらずうつむいた。
ヘルメットがなければ、頭を抱えていただろう。
普段なら想像すらできない爽やかなレオンと熱血なアルミラ、よく分からない展開。
それでも馬鹿馬鹿しいと背を向けられないのが、フィールの人の好さだった。
そしてそんなフィールの混乱ぶりを巻き込んで、話は進んでいく。
「お オズレンジャだか何だか知らんが テオロギアの邪魔は許さないギア!
わがしもべども!
奴等を片づけるギアっ!!」
「ギーッ!!」
いつのまにかしもべたちが登場していた。
「行くぞ!!」
「ええ!」
レオンの声に応えるアルミラのかたわらで、ついにフィールは理解することをあきらめた。
「もうヤケだ!!」
剣を構え、突っ込んでいく。 手近なしもべをレオンに向けて吹き飛ばした。
「イエロー!」
・・・フィールも意外と順応性が高いのかもしれない。
「オーケィ! オラオラオラオラァ!
ブルー!」
「了解よ!」
様々なしもべたちが次々と宙を飛び交う。
「行くぞっ!」 フィールの剣が一閃すると、しもべたちがまとめてエテリアに還っていった。
「やるじゃない、レッド!」
そして・・・
「ギギギギギギ・・・」
しもべたちが全滅したのを見て、声を漏らす怪人に、レオンが誇らしげに叫んだ。
「見たか! 正義の刃を!
テオロギアの手先め!」
「もう残っているのは おまえだけよ!!」
「お おのれ オズレンジャー!
こうなったら この俺様が じきじきに相手をしてやるギア!!
ギッギッギッギッギ!
後悔しても遅いギア!」
「負けるなー!
オズレンジャー!!」
村の少年が応援の声をおくれば、ドロシーも声を張り上げる。
「お兄ちゃーーん!
がんばってえーーーっ!!」
「魔神王陛下から授かった我が力!
思い知るがいいギアーーーっ!!」
棍棒を振り上げた怪人の姿は、聖地を守護していたセルヴスによく似ていた。
いや、まったく同じといってもいい。
なら、負けない! そして、
「ギ、ギギ・・・む 無念だギア・・・
偉大なるテオロギアの魔神王陛下に栄光あれギアー」
赤、青、黄、なんとも派手な煙を上げて、怪人は散った。
「わーい!
スゴイや オズレンジャー!!」
安全なところからのぞいていた村の少年たちが飛び出てくる。
「みんな 大丈夫?
怪我はない?」
子供たちを迎えるアルミラの目は優しい。
「うん! ありがとう!!」
「お兄ちゃん!
カッコよかったよ!」
「そ・・・そう?
なんだかわかんないけど 無事に終わってよかったよ・・・」
そっとつぶやいた一言を耳ざとく聞きつけたアルミラは一転して厳しい眼差しを向けた。
「なに言ってるの フィール!
これで終わりなんかじゃないわ!」
「え・・・?」
きょとんしたフィールに熱をこめて語る。
「今 倒したのはほんのザコ。
秘密結社テオロギアは まだ健在なのよ。
これからもっともっと 狡猾で卑劣で邪悪な作戦を仕掛けて来るわ!」
「なあに!
奴等がどんな陰謀を企んでも 必ず俺たちが打ち砕く!
俺たち3人が力を合わせれば 無敵なんだからな!
そうだろ? フィール!」
爽やかな笑顔を向けるレオンに、フィールの否定する気力は完全に失せていた。
「そ そうだね・・・
あは・・・あははは・・・」
乾いた笑い声の最後がため息になっていたのに気づいた者は誰もいない。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「おお・・・
魔神王陛下はお怒りだ!」
ぼんやりとした光に包まれた空間に重々しい声が響いた。
「あのバカ者めが!
偉そうな事を言って出撃しておきながら
オズレンジャーなどという不逞の輩に あっさり敗れおって・・・!」
激昂する声の主はガルムによく似ていたが、全身が緑がかっていてフィールが知っている姿とは少し異なっていた。
高飛車な少女の声がそれにこたえる。
「しょせん奴は小物。
奴の背にテオロギアの威光は重すぎたのよ。
魔神王陛下!
次の作戦は この妖魔神将ジュジュめにお命じ下さいませ!
あのオズレンジャーどもを 必ずやギャフンと言わせてごらんに入れましょう!」
妖魔神将ジュジュ?
彼女もまた、赤い帽子と服に黒いアイマスクというかなり奇妙ないでたちをしていた。
「いや!
小娘にこの大任は務まらぬ!
陛下!
この獣魔神将ガルムにお任せあれ!」
「おーーっほっほっほっほっほ!
笑わせないで!
うす汚い犬ッコロの分際で このあたしと張り合おうなんて
10の34乗年 早いのよ!」
一笑に付すジュジュだが、ガルムも負けてはいない。
「何をぬかす!
そもそも貴様ごとき低能のガキが 作戦の指揮を執ろうなどとは 笑止千万!
しもべ見習いから やり直すがよいわ!!」
「な な なんですってぇ〜〜!?」
「やめたまえ 君たち!」
落ち着いた声が仲裁にはいった。
「ぬっ!?」
そこに現れたのはヴィティス・・・だったが、やっぱり彼の姿も変わっていた。
紫色の肌に尖った耳、額には何かマークらしきものが赤く描かれている。
「魔神王陛下の御前で見苦しい。
恥を知りたまえ」
「むう・・・
天魔神将ヴィティス・・・
貴様か!」
「何よ!
一人でいい子ぶっちゃって!」
ジュジュの言い草に動ぜず、静かに、しかし力をこめてヴィティスは言った。
「・・・魔神王陛下のお怒りは 深く激しい。
我ら 三神将の名にかけても テオロギアの敵 オズレンジャーを抹殺しなければならない!」
「そんなのあんたに言われるまでもないわよ!」
薄く笑ったジュジュに続き、ガルムも息巻いた。
「オズレンジャーめ!
テオロギアに楯突いた愚を後悔させてくれる!」
「ぐぁーーーっはっはっはっはっは!」
「ほーーーっほっほっほっほっほ!」
ガルムとジュジュ、みょうに息のあったふたりの高笑いが響いていたころ、
フィールは子供たちと並んで、海に沈む真っ赤な夕日を見つめていた。
赤く染められた空がフィールたちの影をくっきりと浮かびだしている。
そんな彼らをバックになぜだかナレーションが流れだした。
秘密結社テオロギアの卑劣な陰謀を 三人のチームワークで見事に打ち破ったオズレンジャー!
だが 彼らの戦いはまだ始まったばかりなのだ。
ふたたび この世界に希望と平和を取り戻す、その日まで
戦え、滅神戦隊! 負けるな、オズレンジャー!
そして最後に次のような字幕が浮き上がった。
〜つづく〜