「キャアアアアアアァァァーーーッ!!!」

「た、助けてっ。死にたくない・・・・・・ イヤアアアアアアァァァーーーッ!!!」


はっとベッドから飛び起きたときは、もう外はずいぶん明るかった。

「イリヤ・・・・・・」  無意識につぶやいていた。

(イリヤ、家にいるかしら・・・・・・
 どうしてだろう? 彼女にすごく会いたい)

「おはようございます。ダニエラさん」

礼拝堂に入ったとき、ダニエラさんは誰かと話をしているみたいだった。

「えっ!? そ、そんな・・・・・・」

ダニエラさんの顔色が変わった。目を見開いたまま、言葉にならない。
ただごとじゃない。わたしにもわかった。

「あの、ダニエラさん? いったい、なにが・・・・・・」

「・・・・・・イリヤさんが・・・・・・」

「イリヤ?」

胸騒ぎ。不安という名の黒い染みが、心に急速に広がっていく。

「イ、イリヤが・・・・・・」

なにもない。なにかあるはずがない。
そう思いながら、わたしはうまく喋ることができなかった。言葉が喉に引っかかる。

「か、彼女が・・・・・・ どうか、したんですか?」

「・・・・・・亡くなったの。魔物に襲われて」

「ウ、ウソ・・・・・・」

「・・・・・・」

ダニエラさんが視線をそらす。
伏せた顔に浮かぶ沈痛な表情が、嘘でも冗談でもないことを物語っていた。

「ウソです、そんなこと・・・・・・。イリヤが・・・・・・ そんなこと、あるはずがありません!」

それでもわたしは信じることができなかった。

「あっ、メアリ!」

わたしは駆け出していた。イリヤの家に向かって。
彼女の家に着けばはっきりする。ダニエラさんが、なにか勘違いをしていたということが。
いつものように、屈託のない笑顔でイリヤはわたしを迎えてくれるはずだ。

「そうだわ。そうすれば・・・・・・はあ、はあ、はあ」

そうすれば、これもただの笑い話になる。
ふたりで紅茶でも飲みながら、笑顔で語り合うことができる。

「・・・・・・だよね。そうだよね、イリヤ?」

「イリヤっ!!」

わたしはお屋敷の人に案内されるようりも早く、彼女の元へと駆け込んだ。
そこでわたしを待っていたものは・・・・・・。

「イリヤ・・・・・・ウ、ウソ・・・・・・」

目の前に、イリヤが横たわっていた。
・・・・・・物言わぬ冷たい躯となって。

「ウソでしょ、イリヤ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

わたしは、ただ呆然と彼女の顔を見つめた。
青白く血の気を失った顔。ほつれた髪は額にかかっている。
来い紫色の唇が一直線に引き結ばれている。

「・・・・・・冷たい」

わたしの指が、吸い寄せられるように、イリヤの顔に触れていた。
彼女の頬は氷よりも冷たかった。

「あぁ、イリヤ・・・・・・」

彼女の頬を指でなぞる。ほつれた髪を綺麗にかき上げてあげる。

「ねえ、イリヤ?」

「・・・・・・・・・・・・」

彼女はひと言も発しない。目も開かない。手も足も動かない。
呼吸も、鼓動もない。

「イリヤ・・・・・・うわああぁぁッ!!」

イリヤは・・・・・・わたしの大切な友達は、本当に死んでしまったのだ。

「なんということだ・・・・・・こんな・・・・・・。
 いったいなぜ、娘がこんな目に・・・・・・」

「イリヤ・・・・・・う、ううっ・・・・・・うううっ」

村長さんもリチャードもうなだれていた。

「リチャード・・・・・・」

「・・・・・・」

「あ、あの・・・・・・」

「・・・・・・ゴメン、メアリ。今日は帰ってくれないか」

「えっ・・・・・・」

「今日はキミの顔をちゃんと見られそうもない。
 顔を見たら、言わなくてもいいことを言ってしまいそうな気がするんだ」

「・・・・・・」

「・・・・・・ゴメン。キミのせいじゃないってこと、わかっているんだ。
 だけど・・・・・・だけど、イリヤが・・・・・・ ううっ・・・・・・ううっ・・・・・・イリヤぁ・・・・・・」

「・・・・・・ごめんなさい、リチャード」

「・・・・・・なんでキミが謝るの?」

「・・・・・・」  夢で知っていたとはいえなかった。

「キミに謝ってほしくなんかない!
 キミが謝ったって、妹が元どおりになるわけじゃないんだ!」

彼の激しい感情に、わたしは言葉がなかった。

「・・・・・・とにかく、今日は帰ってくれないか。
 ボクがこれ以上、キミにひどいことを言わなくて済むように」

「・・・・・・」

分かっていたはずなのに・・・。
わたしは親友を救えなかった。

(夢だったらいいのに) 

帰り道、そんな思いがわたしの心を満たしていた。