バラージュ来訪の夜が明けた日。
朝の祈りを終えたあと、バージニア様、ダニエラさんと話しているとき、ノックの音が響いた。
「誰か来たようですね」
「見てきます」 ダニエラさんが扉に向かう。
「バージニア様・・・・・・」
わたしがためらいがちに顔を向けると、バージニア様は安心させるように微笑んでくださった。
「心配することはありません。
誰であろうと、教会のなかで乱暴を働くようなことはできません」
「はい・・・・・・」
「バージニア様」
ダニエラさんが戻ってきた。
その様子に、バージニア様の表情から笑みが消える。
「どなたですか?」
「村長が。自警団も一緒です」
「そうですか。会いましょう。
メアリ、あなたはここに残っていなさい」
「はい」
わたしは姿を見せないほうがいいのだろう。
バージニア様とダニエラさんが戸口に向かった。
「・・・・・・話し合いにきた」
村長さんの声だ。
気づかれないよう、物陰からそっと様子をうかがう。
村長さん自身は丸腰だったけど、後ろには武装した自警団のメンバーが何人もいる。
(だいじょうぶかしら・・・・・・)
夢で見た、教会の惨劇がよみがえってきて、気が気ではなかった。
「話し合い?」
「そうだ、話し合いだ」
「これはまた・・・・・・。
一方の手で剣を握りしめておいて、話し合いですか」
(バージニア様・・・・・・怒っていらっしゃる)
静かな口調だったけれど、それだけに内心の憤りが伝わってくる。
「少なくとも、教会の教えにはない振る舞いですね」
「なにっ!?」
自警団が気色ばむ。
それを村長がすばやく制した。
「・・・・・・いいだろう。私一人で話をしよう。
それなら文句はあるまい」
村長は自警団メンバーを振り返った。
「そういうわけだ。 おまえたちは外で待っているがいい」
「けど、村長・・・・・・!」
「いいから外に出ておれっ!」
「くっ・・・・・・わかったよ」
自警団はしぶしぶながら、全員が教会の外に出ていった。
最後のひとりが出て行くのを見届けて、村長さんが振り返る。
「さて、これで落ち着いて話ができるな」
「それで、お話というのは?」
「これ以上、村と教会との対立が長引けば、今度にしこりを残すだろう。
村の行く末に重大な影響を及ぼす。
だから、ここで一時休戦としたい」
「休戦? ずいぶん虫のいい話ね」
「ダニエラ」
たしなめる声が聞こえたけれど、ダニエラさんの怒りはおさまらないようだった。
「いいえ、バージニア様。言わせてください。
いい、村長? そもそも、いまのこの事態を招いた責任は誰にあるのかしら?」
「・・・・・・私だろうな」
「そうよ、あなたよ。彼女のせいじゃないわ」
「その点は認めよう。
だが、原因を作ったという点では、領主様にも責任はある」
(村長さんが、ジェラルド様を批判するなんて・・・・・・)
正直なところ、意外だった。
(領主様はこの村の守り神だ、って・・・・・・
子供の頃からそ聞かされてきたのに)
「私には、領主様がなにを考えているのかわからん。
なぜ・・・・・・その娘を花嫁にと望まれたのか。
だから、見届けてみたいと思っている」
「では、休戦というのは・・・・・・」
「そうだ、さしあたって、その娘の16歳の誕生日まで。
約束の日、約束の場所に、その娘を領主様が迎えにくるまでだ」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
(神よ・・・・・・) 私は祈りを捧げていた。
バージニア様と村長さんとの間で話し合いが成立したことで、ひとまず安心だ。
一時は、わたしを殺してもいいと言っていたらしい村長さんの考えが変わったのは、
自警団のメンバーがリチャードに怪我を負わせたからだろうか。
それに昨夜、バラージュが現れたことも影響したのかもしれない。
(この平和がずっと続きますように・・・・・・)
わたしの誕生日が来て、その後、魔物騒ぎがおさまれば、村はまた以前のような静けさを取り戻すに違いない。
(あとは、私の問題・・・・・・)
わたしがどうするか、それを決めるだけ。
「・・・・・・」
私は祈り続ける。
誕生日はすぐ間近に迫っていた。