外はいつのまにか暗くなっていた。
喧騒。人のざわめき。
祈りを捧げていたわたしの耳にも、それは届いた。
(・・・・・・なにかしら? 外が騒がしいみたいだけど)
確かめようと、外に出る。
「・・・・・・見つけたぞ、ここだ!」
「えっ?」
「おう、いたか!」
教会の外に出たところで、わたしは数人の男の人に取り囲まれた。
「あなたたちは・・・・・・」
全員が村の自警団のメンバーだった。
彼らはふだんはあまり教会には来ないから、顔見知りというだけで、特に親しくはなかったけれど。
「教会の奥に隠れていやがったのか」
苛立ちを見せているのは、ステファンという名の自警団員だった。
「隠れて? わたしはただ、礼拝堂でお祈りを・・・・・・」
「そんなことはどうでもいいっ!」
「・・・・・・!」
自警団のメンバーのクラウスに怒鳴られて、身がすくんだ。
「ど、どうかしたんですか?」
彼らは手に手に武器を持っている。
まるで魔物退治にでも行くような、物々しい格好だ。
「あの、教会の人は? ダニエラさんたちは、どこに行ったんですか?」
不安が急速に広がっていく。
あの人たちの身に、なにかよくないことが!?
(ど、どうしよう・・・・・・)
迷っている間にもクラウスが強引に腕をつかむ。
「いいから、オレたちと一緒に来い」
「ど、どうしてですか?」
ステファンが振り返って言った。
「教会の人間は・・・・・・いや、教会の人間だけじゃない。
村のほとんど全員が、広場に集まってる」
「なんなんですか、いったい」
「来ればわかる」
「グズグズするなっ!」
クラウスもステファンも有無を言わさぬ強い力で私を連れて行こうとする。
「痛ッ・・・・・・や、やめてください! ここは教会ですよ? こんな乱暴な・・・・・・」
「いいから、早くしろ! それどころじゃないんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
ふたりの様子はただごとではなくて、抵抗するのはやめにした。
理由を聞いても、話すほど心の余裕がないらしい。
言われるままについていっても、同じ村の仲間だ、そんなに無茶なことはしないだろう。
「・・・・・・わかりました、一緒に行きます」
(あっ・・・・・・)
広場は黒山のような人だかりだった。
ステファンの言ったとおり、村じゅうの人間が集まっているみたいだ。
(いったい、なにがあったの?)
奇妙なのは、話し声がほとんど聞こえないことだった。
礼拝堂まで聞こえたざわめきも、いまはすっかり静まっている。
これだけの人数が集まっていたら、もっと騒々しくていいはずだ。
けれど実際は、たまにひそひそと囁き声が聞こえてくるぐらいで、それだって本来なら当人同士にしかわからないくらいの大きさだ。
(なにか・・・・・・事件があったのは、間違いないみたいだけど・・・・・・)
村の人たちの視線は、広場の一角に集中していた。
しかし、残念ながら、人だかりのせいで、ここからはなにがあるのか確認できない。
「おい、そこ。道をあけろ」
「彼女を連れてきた。通してやってくれ」
ステファンとクラウスが村人をかきわけて、わたしを押し出す。
(な、なん・・・・・・なの!?)
小さな生き物がそこにいた。
人間を小さくしたような姿かたち。ただ、背中には羽根が生えている。
(まさか・・・・・・ま、魔物!?)
いままで直接、目にしたことはなかった。
けれど、そういう生き物が村の外にいるのだと、だから村から出てはいけないのだと、子供の頃から繰り返し聞かされてきていた。
魔物にもいろいろな種類がいるらしいが、目の前の生き物が、少なくとも人間でも動物でもないことは確かだ。
(こ、怖い・・・・・・だから、みんな・・・・・・)
「ああ、いたいた。キミがそうなんだね?」
「えっ!?」
魔物がわたしに話しかけてきた。
予想もしていなかったので、思わず返事をしてしまった。
(しゃ、喋れるの?
人間みたいな姿をしているんだから、喋れても不思議じゃないけど、でも、まさかそんな・・・・・・)
「キミなの、キミじゃないの? どっちさ?」
「え、えっと・・・・・・」
わたしはいまここに来たばかりだ。
聞かれている意味がわからない。
「だからっ・・・・・・」
魔物は少しイラっとした様子で、その場でくるっと一回転した。
「キミがそうなんでしょ、メアリ!」
「は、はい。わたしがメアリです。あなた、は・・・・・・?」
「ボクはレルム。ジェラルド様の使い魔なんだ」
「レルム。ジェラルド様の・・・・・・使い魔?」
使い魔というからには、やはり魔物なんだろうか。
でも、あまり恐怖は感じない。
彼の身長がわたしのひざくらいまでしかないこともあるし、声も口調も子供っぽい。
外見もどこか憎めない、愛らしい感じがする。
「あの、ジェラルド様っていうのは?
それと、わたしにいったいなんの用が・・・・・・」
「キミを迎えにきたんだよ。ボクについてきて」
「えっ?」
「さあ、こっちこっち!」
「は、はい」
レルムの誘導で、わたしは彼についていく。
「さあ、ここだよ」
「ここ・・・・・・?」
「ジェラルド様ーっ。彼女を連れてきましたよっ」
(ジェラルド様って、いったいどこに・・・・・・)
「大儀だった。レルム」
(この声、いったいどこから・・・・・・
・・・・・・えっ!?)
レルムに会ったよりも、さらに大きな驚きがやってきた。
(そ、空・・・・・・空から・・・・・・)
空から黒い『なにか』が、舞い降りてきた。
花びらが水面をたゆたうように、ゆっくりと。
(・・・・・・え、ええっ!?)
それが地面に降り立ったとき、わたしの驚きは最大に達した。
(ウ、ウソ・・・・・・人・・・?)