入学してから2ケ月近く過ぎて、学園生活もだいぶ慣れてきた頃 やってくるのが、全クラスいっせいの学力テスト。 このテストで優秀な成績をとった女子生徒のなかから、シュトラール補佐委員が 選ばれるということで、みんなかなりがんばったみたい。 そして今日は結果発表日。 成績表を見るのどきどきぃー と思っていたら、例の派手な校長先生に呼び出されました。 校長室にはミンナ、オーガスタ、マリーンもよばれていてちょっとびっくり。 私たち4人を見渡すと、校長先生は大袈裟に両腕を広げて 歌うような口調で語り出しました。 朗らかで聞きとりやすいのはいいんだけど・・・ この先生、もっと普通に話せないのかしら。 「こんにちわ。今日キミ達に集まってもらったのは他でもありません。 今まで優秀な女子生徒をシュトラールクラスのお手伝い係として任命してきました。 で、今年はキミ達4人をシュトラール補佐委員に任命しま〜す。 では、頑張ってね〜ん」 パタン。 校長室から出た途端、 「きゃぁ〜、マリーンすっご〜い!」 マリーンがぴょんと飛び跳ねた。 ミンナも満面の笑顔。オーガスタもまんざらでもないみたい。 「すっごい嬉しい〜。これであの方と、もっとお近づきに・・・。 でも、なんでマリーンが選ばれるの? 優等生なの?」 笑顔から一転、あからさまな疑問を浮かべたミンナに オーガスタはうすく微笑んだ。 「マリーンは公爵家の一人娘ですもの。 大人の企みが渦巻いてるわね」 ふたりとも・・・ でもマリーンは全然気が付いていない、というか聞いてもいないみたいだけど。 まあ、とにかく。なんか、楽しくなりそう☆ このクーヘン王国は英知な王と5人の聡明な使長によって統治されている。 使長になる方のほとんどはローゼンシュトルツ学園の卒業生。 未来の国政を担う使長候補であるシュトラール・クラスの方々は、 政治の疑似体験として、この学園の運営をまかされている。 私たちシュトラール補佐委員は彼らの秘書みたいな感じ。 会議の資料を作ったり、書類の決裁をもらったり。 後日さっそくシュトラール室で初顔合わせをしたんだけど・・・。 やっぱりシュトラールに選ばれる方ってすごい。 「君達が補佐委員か。私はオルフェレウス。オルフェと、そう呼んでくれて構わない。 この学園をよき方向へ導いていくために、君達の惜しみない協力を期待している」 最初に口を開いたのは、豪奢な金髪に、すいこまれそうな碧眼の方だった。 明るい空色の服が似合って、なんて気高くて誇り高い・・・。 この方自身がまさに光(シュトラール)そのものだわ。 近くで拝見すると、きりっとした瞳に宿る崇高な光に圧倒される・・・。 「は、はいっ! よろしくお願いします!」 「そんなに緊張するなって、お嬢さん。気楽にいこうぜ。 オレはエドヴァルド。通称エド。よろしくな」 鮮やかな赤い髪の方が笑って、私の肩をぽんと叩いた。 肌の色が浅黒くて、前にカフェで話していた、エド様は出生にいわくがあるのよ、 という声が頭をよぎったけれど、気さくに笑いかけてくれた翠色の瞳は そんな暗さをみじんも感じさせないほど明るく、親しみに満ちていた。 「くだらぬ。要は使えるか使えぬかだ。馴れ合いなどに興味はない」 「ルーイ!」 大きなルビーの瞳がとがめるように、 腕組みをして壁に寄りかかっている長身の方を見上げた。 「あ、ごめんね。ボク、カミユっていいます。 いろいろ大変だと思うけど、一緒にがんばろうね」 ルーイ様から私たちに視線を移した真紅の瞳がふわっと微笑みかけた。 光に透けるプラチナの髪が宝石の瞳とあいまってとてもきれい。 他の方と比べると外見は少し幼いように見受けられるけど、お優しそうで、 ガラス細工を思わせる繊細な印象の方だった。 「ルーイ、名乗るのは礼儀ですよ」 ナオジ様にうながされて、長身の方は腕組みしたまま、冷たい視線を私たちに注いだ。 「ルードヴィッヒだ。 フン・・・私を失望させねばよいがな」 この方、オルフェ様と対照的な方だわ。 黒い服のせいか、闇をまとっている印象がある。 長い髪と冴えた紫の双眸はあたりを払う迫力があって、威厳に満ちていた。 オルフェ様とルーイ様・・・光と闇のように印象は正反対なおふたりだけど、 でも気高いところはとてもよく似ていた。 ルードヴィッヒ様がそれ以上話す気がないのを見てとると、 ナオジ様は私たちに目を向けた。 「ナオジと申します。みなさんはテストで優秀な成績をおさめられた方だとか。 そんな方に手伝ってもらえるとは心強いかぎりです。よろしくお願いします」 さわやかな微笑に黒い瞳がわずかにゆらめく。 首のうしろでひとつにまとめられた長い黒髪といい、 礼儀正しいたたずまいながら、どこか神秘的な雰囲気をただよわせていた。 それにしても、5人揃うと壮観だわ。 一度見たら絶対忘れられないような個性的で魅力にあふれた方たち。 これじゃ、私が知らないって驚かれたのも無理ないか。 緊張しながらも、無事にその日は終わって、帰り道。 部室に用があったので、友達には先に帰ってもらいました。 「人の気配がすると思ったら・・・エリカ殿、あなたでしたか」 「あ、ナオジ様。 はい、ちょっと用事があって。 でももう帰るところです」 ナオジ様は入り口に立ったまま、ちらりと窓の外へ目をやった。 「だいぶ暗くなってきましたね。自分がお送りします」 「え? はい、ありがとうございます。ぜひご一緒させてください」 「それでは帰りましょうか」 寮までの道、私たちは肩をならべて歩いた。 思いがけず素敵な方とご一緒できて、どきどきするんだけど、 それとは別にどこか懐かしいような、ほっとするような不思議な感覚がした。 「今日はおつかれさまでした。 だいぶ緊張されていたようですね」 ナオジ様の優しい声に私はうなずいた。 「ええ、こんなに緊張したのは初めてかもしれません。 シュトラールの方たちはみなさん輝いていて、まぶしいくらいです」 「・・・そう、ですか」 「?」 ナオジ様・・・? どうしたのかしら、ご様子が・・・。 伏せぎみになった顔を見つめられているのに気付いたのか、 ナオジ様はふっと穏やかな笑みを私に向けた。 「あなたが補佐委員に選ばれてとてもうれしいです。 聡明な顔立ちをしていると思っていましたが、やはり間違いではなかったようですね」 「そんな・・・」 寮の門の少し手前でナオジ様は足を止めた。 「もう着いてしまいましたか。補佐委員がんばってください。 何かお困りでしたら、自分が力になります。それではこれで」 「はい。ありがとうございました」 ふ〜、今日は大変だったけど、とても素敵な一日だった。 ナオジ様のお言葉にこたえるためにも、補佐委員頑張らなくっちゃ。 |