12月に入って今年も終わりに近づきました。 世間が気ぜわしくなる中、私は勉強に部活にシュトラールの補佐委員と 充実した学園生活を送っています。 今日はクリスマス。 学園主催のパーティの日! 早く支度しなくっちゃ。 コンコン 「はーい」 「支度は出来てる?」 ミンナが顔をのぞかせた。 「うん、今行く」 ミンナと連れ立って階段をおりていくと、 すでにドレスで着飾ったマリーンとオーガスタが待っていた。 ふたりとも普段と雰囲気が違っててちょっと新鮮。 「早くクリスマスパーティ会場へ向かいましょうよ」 ミンナの声にマリーンの表情がパーッと明るくなった。 握った両手を口元に持っていく、いつものポーズで、したったらずな声をあげる。 「きゃ、楽しみ〜。 マリーンはぁ、きっと注目されちゃうからってお父様、ドレスを買ってくれてぇ。 今日は流行のドレスにしてみたの。ちょっぴり大人って感じ〜。 またみんなに注目されちゃう〜」 普段そういった言葉をさらりと無視するオーガスタがめずらしくマリーンを見て微笑んだ。 「ふふ、その努力だけは認めるわ。 さ、車が待ってるわよ。 さっそく会場へ行きましょう」 踵を返して颯爽と歩く彼女のあとを追うように私たちもついて行ったんだけど・・・。 ん? にこやかな表情につい流してしまったけど、よーく考えると さっき、オーガスタって何気にキツいこと言ってなかった? 「ギムネマちゃん、早くぅ〜」 先のほうからマリーンが振り返って、手を振った。 「あ、ごめん」 私はドレスのスカートをつまんで、小走りに駆け出した。 ・・・ま、いっか。 マリーンは全然気付いてないみたいだし。 玄関に横付けされた車に乗り込むと、だんだんわくわくしてきます。 「それじゃ、しゅっぱーつ!!」 学園で初めてのクリスマスパーティ。とても楽しみです! 車を降りると、あたりは色とりどりの装いであふれかえっていて、 闇の中でもここだけは別世界って感じ。 会場の入り口には槍を持った若い門番が立ち、 不審人物が入らないようにひとりひとりチェックしてくれていた。 「学園の生徒さんですね。どうぞ、お通りください」 うわぁ すご〜い。 会場に足を踏み入れた瞬間、ため息に似た小さな歓声がもれた。 シャンデリアがさんぜんと輝いていて、テーブルには豪華な食事や 鮮やかな色あいの飲み物がずらりと並んでいる。 「え〜、それでは皆さ〜ん。今日はお集まりいただき感謝いたします。 どうぞ、存分にお楽しみください」 校長のスピーチが終わると会場はざわめきに包まれた。 ガヤガヤ 人が大勢きているわ。 「こんばんは、メリークリスマス」 グラスを片手に持ったナオジ様が人ごみの中から声をかけてくれた。 「クリスマスを祝うとは面白い国です。 色々な文化が上手く調和した独自の文化ですね」 「ナオジ様の国ではクリスマスはどう過ごされるのですか?」 「そうですね・・・日本ではあまりクリスマスを祝うという習慣がないのです。 このように祝う人たちはごく一部でしょうね」 会話の途中、何かに気付いたナオジ様は早々に言葉を切り上げた。 「あっ、すみません。ルーイが呼んでいるようなので、失礼します」 行ってしまった。でも、お話が出来てよかった。 そうだ。おいしそうなものがいっぱいありそうだし、ちょっと食べてこようかな。 ん? あそこで一際目立っていらっしゃる赤い髪の方は・・・。 「なあ! ここの料理イケてるよなー」 やっぱり・・・。 「エド様・・・もしかして食べてばかりですか」 あえて声に出して聞いてみた。 山盛りの皿を手にしている様子を見れば、そんなこと聞かなくても分かるんだけど。 私は遠巻きにちらちらと視線を送っているコたちに目をやった。 きっとエド様に話し掛けてもらいたいコはたくさんいるでしょうに。 「んなこといったって、お前もくってみろよ。すっげーうまいんだぜ。 オレの弁当毎日コレにしてくれねーかなー って、・・・ムリか。わははは!」 この方は人を明るくする才能があるみたい。 思わずつられて笑ってしまって、会話も弾んだ。 「あれ! もうパーティ終わりみてーだぜ。またな!」 さて、色々な人とお話が出来たし。帰ろうかな。 入り口で友達と合流してパーティ会場をあとにしました。 * * * * * * * * * * * 「では今度は31日ね。遅れないでよ」 ミンナが最後に確認するように言って、本日は解散。 大晦日の日、ジルベスタはみんなで街へ行って賑やかに新年を迎えるの。 もう今年も終わりなんだ。 月日が経つのは早いなあ。 そして冬季休暇に入って今年最後の日。 わー、街はお祭りムードで一杯ね! きゃ〜! 普段とは全然違う華やかさに私たちの心も自然と浮き立っちゃう。 街はもう大騒ぎ! 広場や大通りには人があふれかえっている。 噴水から流れる、今年出来たワインを飲みながら花火を見るのが風習。 しかし、クーヘン王国でも、お酒は20歳を過ぎてから! 私達はグレープジュースで、カンパーイ☆ 「ねぇ、12時ちょうどに恋の願い事をすると叶うっていうおまじない、やってみない?」 後ろ手に手を組んだミンナが勢いをつけて、私たちのほうを振り返った。 「何それ〜。おもしろ〜い。やってみようよぉー」 こういうことが大好きなマリーンはすでにやる気マンマン。 「そんな子供みたいなこと言って。 所詮迷信よ。でもゲームとしては楽しめるわね」 オーガスタも陽気になっているのか、にこやかに賛成して、これで決定。 「じゃあ、やってみましょう!」 「あ、カウントダウンが始まるぅ〜」 マリーンが大きな時計台を指差した。 私たちの視線が秒針に集中する。 あと5秒、4秒、 3、 2、 1・・・ 「Frohes neues Jahr!」 針が12時を指すと同時にバーンバーンと賑やかな音が鳴り響き、 花火が鮮やかに夜空を彩った。 新年を祝いあう人々の歓喜の声がこだまするなか、 私はミンナがおまじないのことを言い出したとき、 無意識に思い浮かんだ方のお名前を心のなかで祈った。 この気持ちが恋なのかはまだ分からないけど、あの方と仲良くなれますように。 ・・・。 「みんな、誰との恋の願い事をしたのかしら?」 しばらくたって、ミンナが半分好奇心をのぞかせながら、私たちの顔を見回した。 「え〜っと、ナイショ」 「あやし〜なぁ」 マリーンが上目遣いに私の顔をのぞきこむ。 そんなやりとりを見て、オーガスタが口をはさんだ。 「秘め事がいいんじゃない? 私にも聞いたりしないで頂戴ね」 こんな事を話しつつ、まだまだ、終わらない夜を過ごすのでした。 |