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第1幕第1場。背中にギターを背負い、登場した床屋のフィガロ。
彼が、自分は人気者で、いかに機転が利く人間であるかを自慢して威勢よく歌う陽気なアリア。
早口でまくしたてる歌唱法などは19世紀前半のオペラ・ブッファ・アリアとしての最高の出来といわれている。
Largo al factotum della città, largo | おれは町のなんでも屋 <日本語歌詞> |
(Figaro) | (フィガロ) |
La ran la lera, laran la la | ラ ラン ラレラ ラランララ |
La ran la lera, laran la la | ラ ラン ラレラ ラランララ |
ラルゴ アル
ファクトートゥム デッラ チッタァ ラルゴ Largo al factotum della città, largo! |
おれは町のよろずや フィガロ |
La ran la la ran la la ran la la | ラランララ ランララ ランララ |
プレスト アッ ボッテーガ
ケェッ ラルバ エェッ ジャァ プレスト Presto a bottega, chè l´alba è già, presto! |
朝から仕事は繁盛 すごいぞ! |
La ran la la ran la la ran la la | ラランララ ランララ ランララ |
ア ケッ ベル ヴィーヴェレ Ah, che bel vivere, |
すばらしいぞ |
ケッ ベル ピアチェーレ ケッ
ベル ピアチェーレ che bel piacere, che bel piacere |
たのしい人生 たのしい人生 |
ペルン バルビエーレ
ディ クワリタァ ディ クワリタァ per un barbiere di qualità, di qualità! |
うでは自慢の髪床(かみどこ)稼業さ |
ア ブラヴォ フィガロ Ah, bravo fígaro! |
ああ ブラヴォ フィガロ |
ブラヴォ ブラヴィッスィモ ブラヴォ Bravo, bravíssimo, bravo! |
ブラヴォ ブラヴィッシモ ブラヴォ |
La ran la la ran la la ran la la | ラランララ ランララ ランララ |
フォルトゥナティッスィモ
ペル ヴェリタァ ブラヴォ Fortunatissimo per verità! bravo, |
まったく気楽なもんだ ブラヴォ |
La ran la la ran la la ran la la | ラランララ ランララ ランララ |
フォルトゥナティッスィモ
ペル ヴェリタァ Fortunatissimo per verità, |
まったく気楽なもんだ |
フォルトゥナティッスィモ
ペル ヴェリタァ Fortunatissimo per verità. |
まったく気楽なもんだ |
la la ran la la la ran la | ララランラ ララランラ |
la ran la la ran la la ran la la ran la | ラランララ ランラ ラランララ ランラ |
プロント アッ ファル
トゥット ラ ノッテ エ イル ジョルノ Pronto a far tutto, la notte e il giorno |
昼も夜も客が来て |
セムプレ ディントルノ
イン ジーロ スタ sempre d'intorno, in giro sta. |
商売は繁盛 |
ミッリョル クッカンニャ ペルン バルビエーレ Miglior cuccagna per un barbiere, |
みんなからひっぱりだこ |
ヴィータ ピュウン ノービレ
ノ ノン スィ ダァ vita più nobile, no, non si dà. |
ちょっとうれしいことだ |
la le ran la le ran la le ran | ラレラン ラレラン ラレラン |
la le ran la le ran la le ran la le ran la! | ラレラン ラレラン ラレラン ラレランラ |
ラゾーリ エッ ペッティニ
ランチェッテ エッ フォルビチ Rasori e pettini, lancette e forbici, |
かみそりもっても はさみもっても |
アル ミーオ コマンド トゥット
クィッ スタ al mio comando tutto qui sta |
うではたしか ご安心 |
ランチェッテ エッ
フォルビチ ラゾーリ ペッティニ lancette e forbici, rasori, pettini, |
殿方でも奥方でも |
アル ミーオ コマンド トゥット
クィッ スタ al mio commando tutto qui sta. |
みなきれいにいたします |
ヴェェッラ リソルサ ポーイ
デル メスティエーレ V´è la risorsa, poi, del mestiere |
すてきな この仕事 |
コッラ ドンネッタ コル カヴァリエーレ colla donetta... col cavaliere... |
おんなの子も おとしよりも |
コッラ ドンネッタ colla donetta, la le ran le rá, |
おきれいに ラレランレラ |
コッラ ドンネッタ col cavaliere, la la ran la la la! |
いたします ララランラ ララ |
ア ケッ ベル
ヴィーヴェレ Ah, che bel vivere, |
すばらしいぞ |
ケッ ベル ピアチェーレ
ケッ ベル ピアチェーレ che bel piacere, che bel piacere |
たのしい人生 たのしい人生 |
ペルン バルビエーレ
ディ クワリタァ ディ クワリタァ per un barbiere di qualità, di qualità! |
うでは自慢の髪床(かみどこ)家業さ |
トゥッティ ミ キエードノ トゥッティ ミ ヴォッリョノ Tutti mi chiedono, tutti mi vogliono, |
どんなかたでも このわたしを |
ドンネ ラガッツィ ヴェッキ ファンチュッレ Donne, ragazzi, vecchi, fanciulle: |
お気に召し 呼びとめる |
クワッ ラ パルルッカ プレスト ラ バルバ Qua la parruca... presto la barba... |
ひげそりか うわさばなしか |
クワッ ラ サングインニャ プレスト イル ビリェット Qua la sanguigna... Presto il biglietto... |
それとも 恋文か |
トゥッティ ミ キエードノ トゥッティ ミ ヴォッリョノ Tutti mi chedono, tutti mi vogliono, |
どんなかたでも このわたしを |
トゥッティ ミ ヴォッリョノ トゥッティ
ミ ヴォッリョノ tutti mi vogliono, tutti mi vogliono, |
お気に召して 呼びとめるが |
クワッ ラ パルルッカ プレスト ラ バルバ Qua la parruca, presto la barba, |
むすめさんや奥方は |
プレスト イル ビリェット Presto il biglietto, |
みんな恋文 |
フィガロ フィガロ フィガロ Figaro, Figaro, Figaro, ecc |
フィガロ × 9回 |
アイメェ オイメェ ケッ フーリア アイメェ ケッ フォッラ Ahimè, oimè, Che furia, Ahimè, Che folla! |
たいへんだ これじゃたまらないよ |
ウーノ アッラ ヴォルタ
ペル カリタァ Uno alla volta per carità! |
よってたかって みんなして |
ペル カリタァ ペル カリタァ
ウーノ アッラ ヴォルタ per carità, per carità, uno alla volta, |
わたしを使いまわし 追いまわす |
ウーノ アッラ ヴォルタ
ウーノ アッラ ヴォルタ ペル カリタァ uno alla volta, uno alla volta per carità! |
これじゃとても これじゃとてもたまらない |
フィガロ ソン クワ Fígaro! son qua. |
フィガロ! 『まいど』 |
フィガロ ソン クワ (Ehi!) Fígaro! son qua. |
(おい) フィガロ! 『まいど』 |
フィガロ ス フィガロ ギュ フィガロ ス フィガロ ギュ Fígaro! su, figaro giù, Fígaro! su, figaro giù |
フィガロ! 『はい』 フィガロ! 『へい』 × 2回 |
プロント プロンティッスィモ ソン コーメ ウン フルミネ Pronto, prontíssimo, son come un fulmine, |
いつもせっせとまめにはたらく |
ソーノ イル
ファクトートゥム デッラ チッタァ デッラ
チッタァ sone il factotum della città, della città, |
おれはまちのよろずや よろずや |
デッラ チッタァ デッラ
チッタァ デッラ チッタァ della città, della città, della città |
よろずや よろずや よろずや |
ア ブラーヴォ フィガロ
ブラヴォ ブラヴィッスィモ Ah, bravo figaro! Bravo, bravísimo; |
ああ ブラヴォ フィガロ ブラヴォ ブラヴィッシモ |
ア ブラーヴォ フィガロ
ブラヴォ ブラヴィッスィモ ah, bravo figaro! Bravo, bravísimo! |
ああ ブラヴォ フィガロ ブラヴォ ブラヴィッシモ |
ア テッ フォルトゥーナ ア
テッ フォルトゥーナ a te fortuna, a te fortuna |
なんとゆかいな商売だ |
ア テッ フォルトゥーナ
ノン マンケラァ A te fortuna non mancherà |
なんとゆかいな商売だ |
la la ran la la ran la la ran, ecc. | ラララン × 8回 |
ア テッ フォルトゥーナ ア
テッ フォルトゥーナ a te fortuna, a te fortuna |
なんとゆかいな商売だ |
ア テッ フォルトゥーナ
ノン マンケラァ A te fortuna non mancherà |
なんとゆかいな商売だ |
ソーノ イル
ファクトートゥム デッラ チッタァ Sono il factotum della cità |
おれはまちのよろずや |
ソーノ イル
ファクトートゥム デッラ チッタァ Sono il factotum della cità |
おれはまちのよろずや |
デッラ チッタァ デッラ
チッタァ デッラ チッタァ della città, della città, della città! |
よろずや よろずや よろずや |
《直訳》
ラ ラン ラ レ ラ ラ ラン ラ ラ・・・
さあ 街の何でも屋に道をあけたり あけたり!
ラ ラン ラ ラ・・・
夜が明けた 店に急げ 急げ
ラ ラン ラ ラ・・・
ああ なんと素晴らしい人生だ
なんと楽しいことだ 腕のよい 理髪師にとっては
ああ 素晴らしいフィガロ
すばらしい 全くすばらしいぞ すばらしい!
ラ ラン ラ ラ・・・
実際 この上もなく幸福だ すてきだ!
ラ ラン ラ ラ・・・
夜でも昼でも なんでもやる用意をして
いつもそこらをとびまわる
理髪師にとって こんなすばらしい場所はない
こんな品のよい 生活はない
ラ ラ ラン ラ ラ ラン ラ・・・
かみそりも 櫛も メスも はさみも
おれ様の命令待って すべてここにいる
その上 ご婦人や 紳士方と一緒にいるという 役得もあるからな・・・
ラ ラ ラン ラ・・・
ああ 何という素晴らしい人生だろう
なんと楽しいのだろう
腕のよい 理髪師にとっては
みんなが俺を求め みんなが俺に望む
ご婦人方も 子供達も おとしよりも 娘さんも
こちらには鬘(かつら)を 早く鬚(ひげ)を剃ってくれ
こちらには蛭(ひる・血、膿を吸わせて腫れをとるために)を
早く 文を持って行って
みんなが俺を求め みんなが俺に望む
こちらには鬘を 早く鬚を剃ってくれ
急いで手紙を持っていって
おい フィガロ フィガロ フィガロ フィガロ・・・
ああ! 弱ったな!
ああ! なんて忙しいんだ!
どうぞ ご順に お一人ずつに願います
おい フィガロ 「はい ここに居ります」
フィガロ こっちにおいで フィガロ あっちに行け
フィガロ 上って来い フィガロ 下りてくれ
直ぐに 大至急 おれはまるで稲妻のように素早く
俺は町の何でも屋だ
ああ 素晴らしいフィガロ
素晴らしい 全く素晴らしい
お前は幸福だ いつも幸福だ
ラ ラ ラン ラ・・・
俺は町の何でも屋だ
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
全部で38曲に達するロッシーニのオペラの16作目で、彼のオペラ・ブッファ最高傑作といわれ、
現在でも世界中の歌劇場で上演されています。
原作はフランスの劇作家ピエール・オーギュスタン・ボーマルシェの第三作目の戯曲 「セビリャの理髪師、または徒労に終わった用心」 で、
フィガロ3部作の第一部にあたり、モーツァルトのオペラで有名な 《フィガロの結婚》 は、この作品の後日譚となります。
1772年、スペインの民謡やイタリア風メロディをふんだんに取り入れたオペラ・コミック(※)として作られましたが、上演を断られたため、喜劇に作り直しました。
17世紀中頃の詩人スカロンが発表した 『ヌーヴェル・トラジコミック』中の 「徒労に終わった用心(無益な用心)」 などからヒントを得たとされ、
1775年2月23日にフランス、パリのコメディ=フランセーズで上演されるや、1789年のフランス大革命前の
貴族の専横を茶化し風刺した内容が民衆に受け、大人気になり、これがボーマルシェの出世作となりました。
オペラは1816年2月20日、ローマのアルジェンティ−ナ劇場で初演。
1792年に同じ題材がジョバンニ・パイジェッロにより作曲されており、当時人気を得ていました。
そんな事情があって、ロッシーニはこのオペラを作曲するにあたり、気をつかって、《アルマヴィーヴァ、あるいは無益な用心》とタイトルを変えましたが、
1816年の初演はパイジェッロのファンとみられる聴衆の騒ぎのため、後の 《カルメン》、《蝶々夫人》 とならんでオペラ史上語り継がれるほどの大失敗でした。
しかし間もなく各地で輝かしい成功を続け、現在も世界中で親しまれています。
ロッシーニは1816年1月25日に第一幕のリブレットを受け取ってから仕事をはじめ、2月20日に初演を迎えるという驚異的なスピードで作りあげました。
※ 豪華絢爛、壮大華麗なグランド・オペラに対して、イタリアのオペラ・ブッファ(喜劇オペラ)に相当する世俗的な小規模のオペラ。
音楽のナンバーの合間を歌うように説明するのではなく、台詞を用いるのが特徴。
ロッシーニのオペラ 「セビリャの理髪師」 のあらすじ
第1幕 ATTO PRIMO
スペインのセビリャの町。
アルマヴィーヴァ伯爵は首都マドリードのプラド美術館で、医師のバルトロが後見する美しい娘ロジーナにひとめぼれし、その後まもなく引っ越した彼女を追ってこの町に来た。
人通りのない夜明け前、伯爵は楽師たちを雇い、バルトロの家の窓の下でセレナーデを歌うが、彼女は出てこない。
あきらめきれずにいたとき、歌を歌いながら、床屋兼なんでも屋であり、かつて伯爵の従者だったフィガロがやってきた。
伯爵はロジーナに会うためにこのバルコニーの下に日参していることを打ち明け、フィガロがバルトロの家に出入りしていると知って喜ぶ。
バルコニーにロジーナが姿をあらわす。彼女もここへやってくる若者(伯爵)が気になっており、手紙を渡したいと思っている。
取り出した手紙を後見人のバルトロに見られたロジーナは、とっさに機転をきかし、新しい音楽劇 「無駄な用心」 のアリアの歌詞だと答える。
そして手を滑らしたふりをして手紙を落とし、バルトロが取りにいった隙に伯爵に拾わせる。
男がうろついていることを知っているバルトロは、かつがれたのではと疑い、ロジーナを家のなかに戻らせる。
ロジーナの手紙には、あなたの名と身分を教えてくださいと書いてあった。
伯爵に問われて、フィガロはバルトロはロジーナの財産を狙い、彼女を外に出さず、結婚しようとたくらんでいると教える。
そのとき戸が開いて、バルトロがドン・バジリオが来たら待たせておくように、そしてロジーナとの結婚を今日中にしようと言いながら出ていく。
フィガロに自分から行動を起こすべきだといわれた伯爵はフィガロの持っていたギターを伴奏しながら歌に託して名を明かすが、身分や財産ではなく、伯爵自身を愛していることを確かめるため、貧乏な学生リンドーロと名乗る。
伯爵から協力を要請されたフィガロはたっぷりの報酬に知恵をしぼり、酔っ払った兵士に変装して家のなかへ入りこむ計画を立てる。
伯爵はいったん立ち去り、フィガロはバルトロの家へ入っていく。
家のなかではロジーナがラブレターを手に、リンドーロとの愛を勝ち取ってみせると決意を歌うが、封をしたものの、どうしたら渡せるか思案している。
やってきたフィガロに家に閉じ込められている愚痴をこぼしているうちにバルトロが帰ってきたので、フィガロは扉のかげに隠れる。
さっき家のまわりをうろついている若者と一緒にいたのを見て、フィガロがなにか企んでいるのに勘付いたバルトロがロジーナにフィガロが来たかどうか尋ね、家政婦のベルタと下男のアンブロージョからも聞き出そうとするが、
フィガロにくしゃみ薬をかがされた家政婦はくしゃみばかりし、薬として阿片を飲まされた下男はあくびばかりして答えられない。
ドン・バジリオがやってきて、アルマヴィーヴァ伯爵がロジーナを追ってこの町に来たことをバルトロに知らせる。
伯爵の中傷を流して追い出そうとバジリオは提案するが、それでは時間がかかりすぎるとして、バルトロは結婚を急ぐことにし、結婚契約書を作るため部屋をあとにする。
隠れていたフィガロが出てくる。ロジーナにさっき一緒にいた若者(伯爵)のことを聞かれ、
彼は自分のいとこで頭がよくて誠実だが、死ぬほどの恋に陥っているという大変な欠点を持っていると答える。
もったいぶったフィガロから、その人の名はロジーナ、つまり自分だと聞き出し、予想していたとはいえ喜ぶロジーナ。
フィガロから愛情の証に手紙でもといわれ、恥ずかしいわなどとさんざんためらいながらも、
すでに書いてあった手紙を差し出し、いまさらながらフィガロはロジーナの機転に驚く。
手紙を持ったフィガロが出て行き、そのあとバルトロが現れる。
バルトロは今朝ロジーナがアリアの歌詞と偽って落とした手紙の返事をフィガロが持ってきたと疑っており、
さきほど手紙を書いたためにロジーナの指についたインクや、1枚減っている便箋、ペン先が尖っていることを問い詰めるが、ロジーナは嘘をついて言い逃れしようとする。
怒ったバルトロは誰も家に入れないようにし、ロジーナには部屋から出てはならぬと厳命する。
兵士に化けた伯爵が泥酔したふりをして入ってきて、騒ぎに気づいてやってきたロジーナにそっと自分はリンドーロだと伝える。
伯爵は宿泊命令書をみせ、強引に泊まろうとするが、バルトロが免除証を探し出して示すと、それを手の甲で払い飛ばす。
そしてロジーナにあてた手紙を落とし、そのうえにロジーナがハンカチを落として拾い上げる。
気づいたバルトロが手紙を見せるよういうが、バルトロの隙をついてロジーナが洗濯物のリストとすり替えたため、逆に窮地に陥る。
ロジーナは泣き、伯爵はそれに同情し激怒したようにみせ、サーベルを抜いたため大騒ぎになったところに洗面器を持ったフィガロが仲裁に入る。
騒ぎをききつけた警備兵たちがやってきて伯爵を逮捕しようとするが、隊長に一枚の紙をみせ、
身分を明かすと、隊長の態度が一変するので、一同はあっけにとられる。
第2幕 ATTO SECONDO
連隊の者に聞いたが、誰も家に入ってきた兵士のことを知っている者はいなかった。
バルトロはあの男はアルマヴィーヴァ伯爵から送られた者に違いないと思い、家のなかでも安心していられないと嘆く。
そのときドアが叩かれ、今度は音楽の教師に扮装した伯爵がやってきた。
戸を開けたバルトロは男の顔に見覚えがあるが、誰だか思い出せない。
伯爵はロジーナに音楽を教えているドン・バジリオの弟子のドン・アロンソと名乗り、バジリオが急病になったとして、かわりに歌のレッスンにきたと用件を告げる。
疑っているバルトロは確認のため見舞いに行こうとするが、アロンソはアルマヴィーヴァ伯爵から手に入れたと言って、
以前ロジーナがリンドーロに書いた手紙を見せ、ロジーナと話させてくれれば伯爵がリンドーロを使って
ロジーナをもてあそぼうとしているのを信じこませようと提案し、バルトロを信用させる。
ロジーナはリンドーロに気づき、新しいオペラ 《無駄(無益)な用心》 の中のロンドを歌う。
フィガロが洗面器をもって髭をそりにやってくる。
今日は駄目だというバルトロにフィガロは、自分は忙しい身だから次はいつになるか分からないといい、強引に了承させる。
鍵の束をもらったフィガロはタオルを取りに寝室へ行くが、途中で皿を割り、大きな騒音をたててバルトロを引き寄せ、伯爵とロジーナをふたりきりにさせる。
やがてバルトロに連れられて戻ってきたフィガロは伯爵に鍵束から盗んだバルコニーの鍵をそっと見せる。
そこに病気のはずのバジリオがやってきて、みな慌てるが、伯爵はバジリオに金をにぎらせ、話をあわせたフィガロも彼の脈を取って猩紅熱(しょうこうねつ)だといい、追い返す。
フィガロは髭剃りをはじめ、伯爵とロジーナは音楽の勉強をしているようにみせかけて、真夜中にロジーナを連れ出す計画を話し、ロジーナも同意する。
しかし変装という伯爵の言葉にバルトロはアロンソの正体を見破り、伯爵とフィガロは追い出される。
バルトロはドン・バジリオを呼びにやり、彼の言葉から、ドン・アロンソが伯爵自身だと知る。
今晩じゅうにロジーナと結婚するために公証人のところに行こうとするが、外は豪雨。しかも今晩はフィガロの姪の結婚のため公証人はいないという。
フィガロに姪などいないことを知っているバルトロは、また彼らが何か企んでいると察し、バジリオに公証人を呼びにいかせる。
ロジーナを呼んだバルトロはアロンソから手に入れたリンドーロ宛ての手紙を見せ、リンドーロはおまえを伯爵に売り渡すつもりだといい、ロジーナもそれを信じてしまう。
動転したロジーナはくやしまぎれにバルトロとの結婚を承諾し、夜半に駆け落ちする計画まで話してしまう。
バルトロは真夜中に忍び込んできた彼らを泥棒としてつかまえようと、巡邏兵を呼びにいく。
嵐のなか、計画どおりロジーナを連れ去ろうとフィガロと伯爵がバルコニーに梯子をかけてやってくる。
ロジーナは恋人の不実をなじるが、伯爵が実は私はリンドーロではなくアルマヴィーヴァ伯爵本人だと身分を明かしたので喜びにかわる。
3人で脱出しようとしたものの、梯子が外されていて立ち往生。そこにバジリオが公証人を連れてやってくる。
バジリオの機先を制し、フィガロが公証人に伯爵と自分の姪がここにいるから結婚証書の手続きを頼むといい、
伯爵はバジリオに指輪と弾丸、どちらがいいかとせまり、バジリオとフィガロを証人に結婚証書を作ってしまう。
遅れてバルトロが兵隊を連れてやってくるが、時すでに遅し。伯爵が身分を明かすので誰も手が出せない。
バルトロはバジリオを責め、梯子を外したことがとんだ結果になったと嘆き、フィガロから「これこそまさに“無駄な用心”」とからかわれる。
持参金はやれぬというバルトロだが、伯爵からその金はおまえにやるといわれ、ロジーナの財産をもらうことで納得し、全員が結婚を祝福して、めでたしめでたしとなる。