ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト 作曲
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Wolfgang Amadeus Mozart ≪Le Nozze di Figaro≫ KV492
第一幕 第9番 アリア 日本語歌詞と原語フリガナは こちら
伯爵の小姓であるケルビーノは、あらゆる女性に興味と憧れを抱く思春期の美しい少年。
伯爵の怒りに触れて軍隊行きを命じられたケルビーノをフィガロが、からかい励ます歌。
(FIGARO) |
《直訳》 もう飛ぶまいぞ、この蝶々 (フィガロ) |
Non più andrai farfallone amoroso | もう行けまいぞ 愛の蝶々くん |
Notte e giorno d'intorno girando; | 夜も昼もあたりを飛びまわり |
Delle belle turbando il riposo | 美しい女たちの憩いを惑わしには |
Narcisetto, Adoncino d'amor. | |
Non più avrai questi bei pennacchini, | もう許されまいぞ こんな美しい羽飾りも |
Quel cappello leggiero e galante, | 軽く洒落たその帽子も |
Quella chioma quell'aria brillante, | 長い髪も 華やかな物腰も |
Quel vermiglio donnesco color. | あの女のような頬紅も |
Tra guerrieri poffar Bacco! | まさかのことに、兵士たちの中へ! |
Gran mustacchi, stretto sacco. | 大きな口髭 固い背嚢 |
Schioppo in spalla, sciabla al fianco, | 肩には銃 腰にはサーベル |
Collo dritto, muso franco, | 高い襟 勇ましい顔つき |
Un gran casco, o un gran turbante, | 大きな鉄兜 それとも大きなターバン |
Molto onor, poco contante! | 名誉は大きく 報酬は少ない |
Ed invece del fandango | ファンダンゴを踊る代わりに |
Una marcia per il fango | 泥んこ道を行進だ |
Per montagne, per valloni | 山越え 谷越え |
Con le nevi e i sollioni | 雪のなかも 酷暑のなかも |
Al concerto di tromboni | ラッパに |
Di bombarde di cannoni | 臼砲、大砲の合奏に合わせて |
Che le palle in tutti i tuoni | 砲弾の音が雷のように |
All'orecchio fan fischiar. | 耳をつんざくぞ |
Cherubino, alla vittoria; | ケルビーノ いざ勝利へ |
Alla gloria militar! | 軍人の栄光に向かって! |
ナルシス・・・ナルキッソス。
ギリシャ神話に登場する美少年。泉に映る自分の姿に恋い焦がれ、ついに水仙になった。 アドニス・・・ギリシャ神話に登場する美少年。美の女神アフロディテと冥府の女王ペルセフォネに熱愛された。 ファンダンゴ・・・スペインのアンダルシア地方の舞踊。 ギターとカスタネットを使う速い曲で、二人で踊る野性的なもの。 |
第二幕 第11番 アリエッタ
ケルビーノが慕う伯爵夫人にいいところを見せようと、自作の詩(カンツォーネ)を精一杯歌う。
恋への憧れに満ちた初々しい歌。 日本語歌詞と原語フリガナは こちら
Voi che sapete (CHERUBINO) |
《直訳》 恋とはどんなものかしら (ケルビーノ) |
Voi che sapete Che cosa è amor, | 恋とはどんなものか 知っておられるあなた様方 |
Donne, vedete S'io l'ho nel cor. | ぼくが胸に恋を抱いているかどうか 見てください |
Quello ch'io provo Vi ridirò, | ぼくが感じていることを あなたがたに申しましょう |
È per me nuovo Capir nol so. | こんなことはぼくには初めてで よく理解することができないのです |
Sento un affetto Pien di desir, | ぼくは何かが欲しくて仕方ないような 思いを感じています |
Ch'ora è diletto, Ch'ora è martir. | それは ある時は喜びであり ある時は苦しみなのです |
凍る思いをするかと思えば やがて魂は燃え上がり | |
E in un momento Torno a gelar. | そして一瞬のうちに また凍ってしまいます |
Ricerco un bene Fuori di me, | |
Non so chi'l tiene, Non so cos'è. | 誰がそれを持っているのか それがなんなのかわかりません |
Sospiro e gem Senza voler, | おのずと ため息をつき 嘆き |
Palpito e tremo Senza saper. | 知らず知らずのうちに 胸が高鳴り 震えます |
Non trovo pace Notte né dì, | 昼も夜も 心は落ち着きませんが |
Ma pur mi piace Languir così. | それでも こんなふうに 思い悩むのが楽しいのです |
Voi che sapete Che cosa è amor, | 恋とはどんなものか 知っておられるあなた様方 |
Donne vedete S'io l'ho nel cor. | ぼくが胸に恋を抱いているかどうか 見てください |
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原作は、ピエール・オギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェによる風刺的な社会批判の喜劇 「たわけた一日(※)、
あるいはフィガロの結婚」(La Folle Journée, ou Le Mariage de Figaro)。
モーツァルトが題材を選び、夜を昼についで書いた宮廷劇場付台本作者ロレンツォ・ダ・ポンテのテキストに次々と曲をつけ、6週間ですべて完成しました。
「フィガロの結婚」 は、ボーマルシェの3部作散文喜劇の第2部にあたり、第1部 「セビリャの理髪師」 の
続編にあたります。 第3部は 「罪ある母」。
貴族制度を批判し、市民の勝利を謳う内容のため、上演は難しい状況でしたが、
台本作者ダ・ポンテの説得とモーツァルト自らが皇帝の前で弾いた演奏が気に入られ、1786年5月1日、ウィーンのブルク劇場での初演は
モーツァルト自身の指揮によりおこなわれ、かなりの好評を得、今日まで、《ドン・ジョヴァンニ》 《魔笛》 とならんでモーツァルトの代表作になっています。
話はそれますが、モーツァルトとフランス王妃マリー・アントワネットは同い年で、
御前演奏に招かれた6歳のモーツァルトが当時7歳のマリー・アントワネットにプロポーズした話は有名です。
一般に、「フィガロ三部作」 と呼ばれている、
1775年作の 「セビリャの理髪師」 では、アルマヴィーヴァ伯爵の波乱の青春、ほとんど誰もが経験するあの青春に笑い興じ、
1781年に後日物語として書いた 「フィガロの結婚」 で、伯爵壮年期の過ちを陽気に観察したのち、
1792年作の 「罪ある母」 で、伯爵の年老いた姿に納得する。
官能に身を焦がす年齢から遠ざかって、人の子の父となる幸福を味わった人間ならなおのこと、
よほど邪悪な生まれつきでないかぎり、誰でも善人に立ち返るものである。
これこそこの芝居の道徳的目標である。と語られています。
ボーマルシェの分身とよく指摘される、快男児フィガロの名は、原作者ボーマルシェ自身の名(カロン)から出ているという説もあります。
Figaro = Fi Caron = Fils Caron ( Fils は17世紀にはまだ Fi と同じように発音していた) つまり、カロンの息子という意味です。
※ 原作の 「たわけた一日」 は、「おかしな一日」、「狂った一日」 など、本によって訳が違います。
「フィガロの結婚」 のあらすじ
第1幕 ATTO PRIMO
アルマヴィーヴァ伯爵の城内。結婚が決まり、城の中に一室をもらって喜ぶフィガロに対し、許婚のスザンナは伯爵が自分に下心を持っているからだという。
一方、フィガロを好きな女中頭マルツェリーナはフィガロの借金の証文を盾に、彼と結婚したいと医師バルトロに協力を頼む。
かつて結婚するつもりだったロジーナをフィガロの手引きで伯爵に奪われたバルトロは、
自分の昔の女マルツェリーナをフィガロと結婚させればよい復讐になると喜ぶ。
スザンナのもとに小姓ケルビーノがやってきて、昨日、バルバリーナ(庭師アントニオの娘)とこっそり会っていたのを伯爵に見つかり、
暇を出されたので伯爵夫人に許しをとりなしてくれるよう頼んで欲しいといってくる。
ケルビーノは出て行きかけるが、伯爵がやってくる姿にあわてて戻ってきて、椅子のうしろに隠れる。
伯爵がやってきてスザンナを口説き始める。そこへバジリオがやってきたので、バツが悪い伯爵はケルビーノが隠れている椅子の後ろに隠れようとする。、
スザンナは立ちふさがるが、伯爵はそっと押しやり、彼女が後ずさりした間にケルビーノは前に回りこみ、椅子の上にのる。その上にスザンナは部屋着をかけて覆い隠す。
スザンナとバジリオの話で、ケルビーノが伯爵夫人を慕っているのを知った伯爵は怒りのあまり、隠れていた椅子の後ろから出てくる。
伯爵は昨日もケルビーノの不行業を見つけたとその時の様子を再現して椅子にかかっていた部屋着をとってみせると、
そこにケルビーノがいてびっくり。ケルビーノが最初からいて、スザンナをくどいていたのも聞いていたのを知るが、
そこにフィガロが農民たちを連れて登場。伯爵が夫人との結婚のときに初夜権を廃したことをたたえさせる。
伯爵がスザンナを手に入れたいがために、初夜権を復活させようともくろんでいるのを知っていて、それを阻もうとしているのである。
皆の手前、善良な領主を演じる伯爵だが、マルツェリーナを探す時間をかせぐべく、結婚をもう少し引き伸ばすよう言う。
ケルビーノには罪を減じて、軍隊に即刻入隊するように命じる。ため息をつくケルビーノにフィガロは出発前に話があると小声でいう。
第2幕 ATTO SECONDO
伯爵から言い寄られたことをスザンナから聞いた伯爵夫人は、夫の不実を嘆く。
そこへフィガロがやってきて伯爵をはめる二重の計画をたてる。ひとつはバジリオを通じて伯爵夫人が舞踏会に恋人と密会するニセの約束を知らせることで、
嫉妬にかられた伯爵に婚姻を邪魔する機会を失わせること。もうひとつはスザンナに夕方伯爵を庭で待つと伝えさせ、
スザンナの代わりにフィガロが引き止めているケルビーノを女装させ、そこにいかせる。その現場を伯爵夫人がおさえれば、
伯爵は夫人の手前、我々の結婚を認めざるを得ないだろうというもの。
ロジーナとスザンナはフィガロの計画にのり、さっそくケルビーノを女装させる。その途中、狩にでかけていた伯爵が突然戻ってくる。
ケルビーノは慌てて衣装部屋に隠れ、中からかんぬきをかける。普段は鍵をかけない夫人の行動をあやしみ、
伯爵は本当に夫人が浮気をしているのではないかと疑う。しかも衣装部屋でケルビーノが机と椅子を倒し、けたたましい音を立ててしまう。
夫人はスザンナがいるというが、嫉妬にかられた伯爵は無理矢理こじ開けようとする。
誰も出入りできないように部屋に鍵をかけ、伯爵夫妻は戸をあける道具を取りに出て行く。
そのすきに衣装部屋のケルビーノは窓から庭に飛び降りて逃げ、ベッドのかげに隠れていたスザンナが衣装部屋に入る。
戻ってきた伯爵夫人はそのことを知らないので、フィガロが計画したことを話してしまう。
しかしいざ開けてみると衣装部屋にはスザンナしかいないのでふたりともびっくり。一転して、伯爵は夫人に許しを請うはめになる。
しかしその後の会話で伯爵に渡った手紙はフィガロが仕組んだものだとばらしてしまう。
そこへフィガロが婚礼の楽隊が外にやってきたと言いにきて、早く結婚式を挙げようという。
伯爵は手紙のことを知りつつも、この手紙を書いたのは誰かと聞くが、フィガロはあくまでもしらをきる。
半ば酔っ払った庭師のアントニオが壊れたカーネーションの植木鉢を持って入ってくる。窓から男が飛び降りて壊したというのだ。
フィガロは機転をきかせ、飛び降りたのは自分だという。アントニオは男が飛び降りたさい、落とした紙をフィガロに渡そうとするが、
それを伯爵は取り上げ、何の紙を落としたかフィガロに問う。それはケルビーノの軍隊行きの辞令だった。
それを見た伯爵夫人がスザンナに、スザンナがフィガロにささやく。なぜフィガロが持っているのかと問われるが、
それも辞令に印が押してないからとこっそり教えてもらい答えると、伯爵はそのとおりだったので辞令を破り捨てる。
うまく切り抜けたと思ったのも束の間、マルツェリーナ、バルトロ、バジリオがやってきて、借金の証文をかたに、
伯爵にフィガロが借金を返せないのならマルツェリーナと結婚する契約を実行するよう要求する。
またもや状況は一転し、フィガロ、スザンナ、伯爵夫人は困惑し、伯爵、マルツェリーナ、バルトロ、バジリオは内心ほくそえむ。
第3幕 ATTO TERZO
フィガロの計画が失敗に終わったので、伯爵夫人はスザンナとふたりで計略を練る。
最初のスザンナのかわりにケルビーノを使うフィガロの計画を変更して、伯爵夫人がスザンナのふりをして庭で伯爵を待つことにする。
スザンナは計画通り、伯爵と庭で会う約束をかわす。部屋を出ていくスザンナはフィガロに訴訟に勝ったといい、
それを聞いた伯爵はどんな罠に落ちたのか、私がため息をついているのに、召使いが幸福になっていいものだろうかと、不忠な召使いたちを罰しようと決める。
裁判が始まり、フィガロはマルツェリーナに借金を支払うか、でなければ彼女と結婚するよう宣告される。
フィガロが訴えようとしても伯爵は聞く耳もたない。フィガロは自分は貴族だから、両親の承諾なしには結婚できないと言い張り、
さらわれた赤ん坊のときの豪華な服や右腕のアザのことを言う。するとマルツェリーナがラファエッロよ、と言い、
彼女がフィガロの母親で、父親がバルトロだということが明らかになる。
家族3人で抱き合っていると、スザンナが借金を払おうとお金を持って戻ってくる。マルツェリーナと抱き合っているフィガロを見て、
心変わりしたと勘違いしたスザンナは部屋を出て行こうとし、引きとめたフィガロに平手打ちをくらわす。
やがて誤解は解け、スザンナ、フィガロ、バルトロ、マルツェリーナは抱擁しあう。そしてバルトロとマルツェリーナも今日結婚しようという話になる。
一方、逃げたケルビーノはバルバリーナの家にいて、女装して、みんなと一緒に伯爵夫人に花を贈ろうと誘われる。
伯爵と逢引の約束をとりつけたスザンナは、伯爵夫人に言われて手紙を書き、ピンで封をする。手紙には場所を指定するとともに、このピンを返してほしいと書いてある。
そこへ農民の娘たちが花束を持ってやってくる。そのなかに女装したケルビーノがいて、伯爵夫人はケルビーノの花束を受け取り、額にキスをする。
伯爵と庭師アントニオが入ってきてケルビーノの正体をあばく。命令に従わなかったケルビーノを伯爵は罰しようとするが、
バルバリーノが伯爵とキスしたことのご褒美にケルビーノをくださいと、キスされたことを暴露したため、見逃さざるをえない。
婚礼の前祝いが始まり、スザンナが伯爵に手紙を渡す。手紙を取り出した伯爵がピンで指を刺した仕草を見たフィガロは、
誰かが伯爵に恋文を渡したのを知る。手紙を見て喜んだ伯爵は今夜の盛大な宴会を宣言。一同が伯爵を歌い讃える。
第4幕 ATTO QUARTO
バルバリーナが落としてしまったピンを探している。手紙をとめていたピンで、伯爵からスザンナに届けるよう渡されたものだ。
フィガロはそばにいるマルツェリーナからうまくピンを一本抜き取って、バルバリーナに渡し、逢引き場所を示す伝言を聞き出す。
伯爵夫人とスザンナの新たな計略を知らないフィガロは怒って立ち去る。スザンナの潔白を信じるマルツェリーナは彼女にこのことを知らせに行く。
フィガロは逢引き場所にバルトロとバジリオを呼んで身をひそめる。そこへ伯爵夫人に変装したスザンナと、スザンナに変装した伯爵夫人、マルツェリーナがやってくる。
一人になったスザンナはフィガロが隠れているのを知りながら、疑った報いを与えてやろうとわざと聞こえるように愛のアリアを歌い、
フィガロの怒りは頂点に達する。何も知らないケルビーノがやってきて、
変装した伯爵夫人をスザンナと間違えてせまり、割り込んできた伯爵にキスしてしまう。ケルビーノは逃げ出し、
彼に平手打ちをくらわせようとした伯爵はのぞきこもうと顔を出したフィガロを叩いてしまう。伯爵は変装した夫人をスザンナだと信じて口説き、
愛のしるしとしてダイヤモンドの指輪を与える。松明の明かりとむっとしたフィガロの声にふたりはいったん別れる。
その場に現れた伯爵夫人に訴えようとしたフィガロだが、声で変装したスザンナだと気づき、そのまま気づかぬふりをして口説きだしたので、
怒ったスザンナから連続して平手打ちをくらう。スザンナと知ってて口説いたと説明し、ふたりは仲直り。
スザンナ(に変装した伯爵夫人)を探してやってきた伯爵がふたりを見て、夫人がフィガロと浮気していると信じこみ、人々を呼び集める。
ところが最後にスザンナの姿をした夫人が現れたことで真相が明らかになり、逆に伯爵のほうが許しを請う。夫人は許し、結婚への障害もなくなり、こうして
「狂った一日」 は幕をおろす。
・「もうひとりのタルチュフ(※)または 罪ある母」 (l'Autre
Tartuffe, ou la Mère coupable) について
フィガロ3部作の第3部。五幕の正劇。正劇とは、ブルジョワ社会を題材とし、感傷味のあふれた、こっけい味の少ない現代劇で、
「まじめな喜劇」 「ブルジョワ悲劇」 などの 名でも呼ばれています。
1962年6月26日、フランスのマレー劇場において初演され、1966年、ミヨーがオペラ化しました。
“罪ある母” とは、伯爵夫人をさしていますが、“妻” でなく、“母” としたのは、彼女が母親だということを知ってもらいたい、
さもないと浮気女を見るのだと思われかねない、というボーマルシェのこだわりがあります。
タルチュフはここでは執事ベジャースをさしています。
※ タルチュフ・・・えせ信仰家や偽善家の代名詞。モリエールの同名の喜劇に出てくる主人公の名から。
「罪ある母」 《原作》 のあらすじ
1790年末、フィガロとスザンナはかわらずアルマヴィーヴァ伯爵夫妻につかえているが、
一家はスペインから執事ベジャースの意見により、大革命下のパリに移住している。
伯爵夫妻の長男は賭け事のいさかいがもとで二年前に亡くなり、ほかに次男のレオンと伯爵が後見人となっている娘フロレスティーヌがいる。
伯爵はレオンの出生を疑って嫌っているが、伯爵にかわいがられているフロレスティーヌとレオンは相思相愛の仲だ。
フィガロとスザンナはアイルランド人の執事ベジャースが伯爵家の財産を狙っているのを知っているが、
伯爵一家は彼を信頼しきっているため容易に手が出せない。ふたりは彼の正体をあばき、伯爵家を守ろうと奮闘する。
ベジャースがやってくるのに気づいたふたりは大喧嘩を装う。フィガロが怒って出ていったあと、
ベジャースはスザンナを信用し、秘密を明かす。実はフロレスティーヌは伯爵の本当の娘で、愛人との間にもうけた子だというのだ。
あの二重箱の宝石箱が手に入ればとつぶやくベジャースは、スザンナにフロレスティーヌが自分と結婚する気になるよう口添えを頼む。
伯爵が現れ、夫人と同じダイヤのブレスレットをフロレスティーヌにプレゼントするため、スザンナに夫人の宝石箱を取ってこさせる。
宝石箱を受け取り、スザンナをさがらせた伯爵はベジャースにブレスレットを取りにいかせた真の理由を語る。
昔伯爵の小姓をしていた、シェリュバン・レオン・ダストルガ(ケルビーノのこと)と伯爵夫人との間に生まれた子、それが次男のレオンだというのである。
伯爵は自分の肖像入りのダイヤのブレスレットとケルビーノの肖像を入れたそっくり同じブレスレットを入れ替える。
伯爵夫人が知らん顔をしていれば証拠になるし、何らかの形で口にすれば厳しく問い詰めるつもりだ。
ベジャースは反対するふりをして、わざと宝石箱を引っ張り合い、二重底を開ける。ベジャースは止める言葉を並べつつ引き下がるが、
伯爵が中から出てきた手紙に目を通しているのを上目遣いに見て取ってひそかに喜ぶ。軍隊にいた頃、ケルビーノの副官だったベジャースはそれが何だか知っていた。
ケルビーノの死後、遺書ともいえるこの手紙を届け、二重底の宝石箱を作らせてそこに隠すように仕向けたのは彼だったからである。
ひとりになった伯爵は手紙を読む。ひとつは伯爵夫人からケルビーノにあてたもので、聖レオンの祭日にケルビーノの子を生んだこと、
もう二度と会わないことが書かれており、もうひとつはそれに対するケルビーノの返事で、子供にはレオンと名づけて欲しい。
最後の部分は戦争で深手を負い、死のまぎわに書き足したのか、血で書かれている。
ただ一度の罪におののく夫人とケルビーノの一途な思いに胸がしめつけられる伯爵。
そこへベジャースが、しばらくして花束を持ったフロレスティーヌがやってきて、伯爵はフロレスティーヌにベジャースとの結婚のことをほのめかし、
ベジャースもさりげなく、彼女の父親が伯爵だといおうとするが、そのときフィガロと伯爵夫人が現れる。
今日は聖レオンの祝日、フロレスティーヌがレオンの誕生日のために花飾りを作ったと知って喜ぶ夫人。伯爵たちは去っていくが、
最後に出ていったロジャースは二度もフィガロを振り返ってにらみ、無言で脅しあう。
フィガロのもとにスザンナがきて、ベジャースの計画・・・フロレスティーヌと結婚し、伯爵家を手に入れること、
邪魔なレオンはフィガロを供につけて外に出し、伯爵夫人は離婚手続きのさなかにも修道院行きさせようと画策しているのを耳元で告げ、足早に去っていく。
フロレスティーヌのもとにベジャースがやってきて、伯爵がほのめかした結婚相手のことを尋ねる。
フロレスティーヌはレオンだと思っているので、ベジャースはあなたは伯爵の実の娘だからレオンとは兄妹になると嘘をつく。
ベジャースが去った後、あまりのショックに泣き崩れるフロレスティーヌ。そこへやってきたレオンと伯爵夫人は、なぜ彼女がこれほど悲しんでいるのか分からない。
伯爵夫人はフロレスティーヌをつれて去り、悲嘆にくれたレオンはフィガロに相談する。くれぐれも冷静にと助言するフィガロ。
そこへベジャースがやってきたので、レオンはさっきフロレスタ(フロレスティーヌ)に何を言ったのかたずねる。
フィガロを出て行かせたあと、ベジャースは、君とフロレスティーヌを結婚させようと伯爵に働きかけたがダメだったなどと偽善を並べ、
レオンにもフロレスティーヌと兄妹であると嘘を教える。ベジャースを信用するレオンは簡単に騙されてしまう。
伯爵夫人の部屋。夫人がフロレスティーヌにわけをたずねるが、泣くばかりで答えようとしない。何度も謝っては修道院へ行きたいと言い出す始末。
部屋に入ってきたベジャースに相談するが、彼はまた偽善を示し、フロレスティーヌが伯爵の実の娘であることを明かし、
伯爵が手紙を抜き取ったことを分からなくさせるため、以前渡したケルビーノの残りの手紙を処分するよう言う。
半ば強引にベジャースが焼き捨てているところに伯爵とフィガロがやってくる。フィガロとスザンナをさがらせた伯爵夫妻はベジャースの偽善にすっかり騙され、
彼とフロレスティーヌとの結婚を今夜にでもと言い出す。ベジャースは言葉たくみに伯爵にレオンをフィガロを供につけて早く家を出すように促す。
金をばらまいて、ベジャース宛の手紙を手に入れたフィガロが伯爵夫人の部屋でスザンナと待ち合わせている。
しかしスザンナは来ず、かわりにベジャースが通りがかる。挑戦的な言葉を交わし、フィガロはその場をあとにする。
ベジャースは伯爵の財産をすべて手に入れるため、伯爵夫婦をケンカさせ、夫人を修道院送りにしようとたくらむ。
レオンは即刻出発するよう伯爵に命令され、フロレスティーヌもベジャースと結婚するよう伯爵夫人とレオンにすすめられ、
ベジャースの思うとおりに着々とことが運んでいる。
伯爵夫人は伯爵を部屋に呼び、レオンの不当な扱いに意見するが、激昂した伯爵は奥の部屋でレオンが聞いているのを知らず、
出生の秘密をばらし、あの子の弁護をしながら、自分の肖像付きのブレスレットをしているのかとなじる。
ブレスレットを返そうとした夫人は肖像がケルビーノになっているのに驚き、自責の念から気を失う。
やり過ぎたことに気づいた伯爵はあわてて助けを呼びに行く。
レオンが奥の部屋から飛び出して駆け寄る。スザンナが気付け薬をかがせると、伯爵夫人は目を覚ますが、
左右にレオンと伯爵がいるのを見ると、床に身を投げ、ひれ伏し、罪深い母! 恥ずべき妻! と叫び、死を願う。
心から後悔した伯爵ははじめてレオンを息子と呼び、フィガロも交えて話しているうちにベジャースのたくらみが明らかになり、
信用しきっていた伯爵家の人々もやっと彼の正体に気づく。だが時すでに遅し。一足違いでベジャースは財産を手に入れてしまう。
何も知らないベジャースが戻ってくる。フィガロは伯爵たちと一芝居うち、ベジャースの財産をフロレスティーヌに贈与する契約により、
伯爵の財産を取り戻すことに成功する。伯爵はフィガロから受け取ったベジャース宛ての手紙を突きつける。
それによってアイルランドに妻がいることがばれたベジャースは開き直り、財産を処分しようとするのは騒乱を起こすためだと大使に訴えて、
財産を没収させ、密告者として3分の1をもらおうとたくらむが、今度はフィガロが先手をうっており、事なきをえる。
こうして悪党を追っ払い、伯爵と夫人も許しあい、血がつながってないことが明らかになったレオンとフロレスティーヌの結婚も認められ、すべては万々歳となる。