テーブルの上に安置された水晶柱をはさんで二人は向き合った。
水晶柱はさっき集められた星空からの光で満たされている。
その光に映し出されるレイルは夢幻の美をたたえていた。
きらきらと豪奢に輝く髪は星々の黄金をより集めたようであったし、
白く透き通った肌はダイヤモンドのようだった。
それは人の側には属さない、
一般に神や魔といわれる類いに属するもの。
今のレイルが言った言葉なら、たとえでたらめでも皆信じてしまうだろう。
レイルは水晶柱に手をかざし、カイルを見上げた。
「柱の上に手をかざして」
言われたとおり手を差し出すと、
水晶柱にあふれている光が流れるように動き出し、
さまざまな紋様をかたちどる。
「速い!」
驚愕の声がレイルの口から漏れた。
まばたきもせず光が次々と描き出す紋様を凝視している。
紋様を描くごとに光はどんどん薄れてゆき、
やがてすっかり消えてしまった。
力尽きたように、レイルはばったりと手を下ろす。
「だいじょうぶ?」
「ええ。いったいどうしたのかしら。おかしいわ・・」
汗のにじむ額を抑え、ため息まじりにつぶやく。

「どうしたの?」
「カイル、あなた本当は占いを拒否してない?」
「え!? そんなことないけど」
「そう・・・ごめんなさい。いつもと違ったものだから。
おかしいわ。久々だったからかしら」
納得できないのか、しきりに首をひねっている。
「何か分かった?」
「やっぱり何か起こるみたい。
『・・出会い・・別れ・・緑の瞳見つめる先、
蒼き清浄の地で運命の・・・巡り会う・・・
終わりの始まりを導かんがため・・・
・・・希望とならん』
かなり見逃しちゃって。
なんとか読めたのはこれぐらいだったわ」
「緑の瞳・・・」
カイルは窓際に歩いていった。
再び村外れに広がる森に目を向ける。
闇に光る
エメラルドの輝きはまだそこにあった。
「レイル、あれなんだろう」
「何? あれってどこ?」
「ほらあそこ。森の中、緑色に光ってるところがあるだろう?」
「どこ? どこも光ってないわよ」
カイルが指指した先をいくら探しても、
レイルにはしみのような黒い森しか見
えなかった。
「・・・。 ちょっと出かけてくる」
ベットの上に置いてあったマントをひっつかむと、
カイルは足早に部屋を出て行った。
あの光は僕を呼んでいる。
そんな気がして、いてもたってもいられなくなった。
街灯に群がる蛾のように、彼の心は無性にあの輝きに引きつけられていた。
◆ ◆ ◆
こんな時間に外をうろつく人はまずいない。
自然とカイルの足は早くなっていた。
「待って!」
振り向くと、マントを丸めたまま小脇にかかえて、
走ってくるレイルの姿が目 に入る。
「私も行くわ」
追いついたレイルは息をきらしながら言った。
歩きながら、丸めたマントを広げる。
ライトブルーのフード付きマントが夜の闇に旗のようにひるがえった。
それを手早くはおると胸の前の飾りボタンでしっかりと留める。
「運命がどうとか言ってたよね」
レイルに会わせて、歩みを遅めたカイルがふいに切り出した。
「前にも同じようなこと言われたことがあったんだ。
君と会う少し前だったけど、『運命が待っている』 って」
「・・・。私にはあなたの運命は見えないわ。
どうしてかは分からないけれど、星たちが戸惑っている感じなの。
まるであなたに遠慮してるみたい。
こんなことは初めてだわ」
レイルは歩きながら頭上の星を見上げた。
爽やかというにはちょっと冷たすぎる夜風がマントをはためかせる。
無数にある星はひとつとして同じものはなかった。
大きいもの、小さいもの、目を引く強い輝き、
あるいは今にも消えいりそうな弱々しい光・・
それはこの世界に住む者がひとりとして同じ者がいないのと同じだった。
「きっとその人にはあなたの運命が見えたのね」
「ごめん。気を悪くさせたならあやまるよ。
別に深い意味はないんだ。 急に思い出しただけで」
「違うのよ。ただ不思議なだけ。
どうして星たちがあんなにためらっているのか
」
それきり二人は無言になった。
村はだいぶ後ろになり、森に入る。
あたりは暗く、うっそうとしていて、迷ってしまいそうだ。
カイルは迷わずどんどん進んでいくが、レイルはだんだん不安になってきた。
つのってくる不安に耐え切れず、カイルの腕をつかもうとしたその時、
「ここだ」
急に立ち止まったので、レイルはカイルにぶつかりそうになった。
「大きな木・・・」
見上げたレイルは思わずつぶやいた。
2、3人の大人が手をつないでも届かなそうな太い幹がそびえ、
頭上には空を覆わんばかりに広がる緑の葉がざわざわと夜の風に揺れている。
「なぜ僕を呼ぶ?」
カイルはごつごつした幹に手を触れた。
彼にはこの大樹の葉が鮮やかな緑に輝いているのが見えた。
この樹はカイルの大地の力と呼び合っている。
レイルは巨木とカイルが互いの精霊力で語り合ってるように感じられた。
「分かった」
「!? カイル!?」
慌ててレイルは手を伸ばした。が、時すでに遅く、カイルの姿はなかった。
消えてしまったのだ、一瞬で。
「ちょっとー どうなってるのよー!!!」
視線はカイルを探しつつ、途方にくれた子供のようにレイルは叫んだ。
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