「レイル、レイル・・・」
肩をゆすぶられてレイルは目を覚ました。
カイルが地上に戻ってきて最初に見たのは、
巨木の根元に体を預け、すこやかに寝入っているレイルの姿だった。
「風邪ひいちゃうよ。こんなところで寝てたら」
「カイル〜! なんでいきなり消えちゃうのよー!」
目を開けるなり、がばっと起き上がったレイルは、
がっしりと両手でカイルの服を握りしめた。
安らかな寝顔とは一転してみるみる目はうるみ、涙声になっている。
「狼とかの声はするし、すごく怖かったんだから。
でも、この樹にしがみついてたら、
あたたかくてなんだかとても安心したの。
そうしたら、いつのまにか眠っちゃったのね」
顔を上げ、頭上をおおう巨木の枝葉を見つめた。
「不思議な樹・・・」
「ごめん。置き去りにして」
「ううん」
レイルは握りしめていた手を離し、小さく首を振った。
「もとはと言えば、私が勝手についてきちゃったんだもの。
それでカイル、あなたいったいどこに行っていたの?」
「う・・・ん。明日説明するよ。
今ちょっと混乱してるんだ」
その夜、宿のベッドで横になったものの、
カイルはなかなか寝付けなかった。
◆ ◆ ◆
次の日の朝、やや遅めの朝食をすませた二人は
それぞれの部屋に戻り、出発の準備を整えていた。
荷物をまとめている途中のレイルの部屋にノックの音が響く。
「はーい」
「入っていい?」
聞きなれた声がドア越しに聞こえた。
「どうぞ」
手は動かしたまま声だけ返す。
ドアの開く気配がしたが、
わざわざ視線を向けることなく、せっせと荷物を詰めていた。
入ってきたカイルが何か言い出しづらそうに
間を計ってるのが手にとるように伝わってくる。
やがてひとつ深呼吸すると、思い切ったように話を切り出した。
「レイル。実は、ちょっと用事ができたんだ。だからここで・・」
「それは昨日のことと関係あるの?」
やっと荷物を詰める手を止め、レイルは振り向いた。
部屋にいるカイルはマントをまとい、
もうすっかり旅支度を整えていた。
「え? ああ・・・」
「ちょっと待ってて」
くるりと背を向け最後の荷物を袋に押し込むと、
今度はきちんとカイルに向きなおる。
椅子に座るよう目でうながすと、自分はベッドのはしにちょこんと腰掛けた。
「昨日説明してくれるって言ったわよね。あのとき、どうしてたの?」
「うん・・・ あの樹は、一種の扉みたいなものだったんだ。
大地の精霊力が カギになっていて・・・
君も知ってるとおり僕は大地の精霊使いだからゲートが見えた。
それで、そこを抜けて神殿みたいなところへ行ったんだ」
カイルはあの神殿で起こったことをときどき自分でも整理するように
黙りこみながら、慎重に話した。
レイルは黙って耳を傾けている。
「ねえ、それ、私もついていっていいかしら」
話が終わったあと、
しばらく考える素振りを見せていたレイルはカイルの顔を見た。
「え!? 君は時の神殿を探すっていう目的があるんじゃないの?」
「あるわよ」
予想外の言葉に戸惑う声にレイルは平然と答えた。
「でもまだどこにあるのかすら分からないんだもの。
どこにいったっておんなじよ。
それに、私はあなたの運命に興味を持ってるの。
占いの結果も気になるし」
「そっか」
カイルはつぶやいた。
気の抜けたような表情をしている。
「なに? 迷惑なの?」
「いや、そんなことない。
これからもよろしく」
ほっとした色を浮かべ、彼は微笑った。
|