謎 か け 姫 第四問
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「遅いぞ」 ルースとバッツが振り返ってウェルを見ていた。 空には三日月が浮かんでいる。 ふたりの前には地面に半ば埋もれているような石造りの建物があり、 地下にくだる階段がぽっかりと口をあけていた。 「これでも努力したんだから認めてもらいたいね」 そう言葉を返しながら階段をおりていった先は、おごそかな神殿を思わせるつくりだった。 「どうやら時間稼ぎされたようですね」 様子を見て取ったバッツが言った。 「ミシェイル! !?」 駆け出したウェルの身体が見えない壁に阻まれた。 魔法陣のまんなかにミシェイルが横たわっており、その外側にローブをまとった人物が立っている。 人物の手には開いた本があり、宙に浮かぶいくつもの光文字が魔法陣のなかにゆらめいていた。 「内なるものが欠けている、もろい人形・・・器なる存在」 ローブの女は手をあげた。 浮遊する文字の淡い光を受けて、銀色の指輪がきらりと光る。 ひとつひとつの文字の光が強くなり、魔法陣の広間を淡く包み込んだ。 あの光文字は・・・ウェルは眉根をよせた。 胸の上に置かれていた夢魔の石がミシェイルのなかにすいこまれると光文字は薄れ、 本来の闇と静寂が戻ってきた。直後、ローブの女はその場に崩れ落ちた。 持っていた本は細かい粒子になり、何かに導かれるように高い窓から外へ流れ出てゆく。 人の動く気配に視線を戻すと、魔法陣の中央に横たわっていたミシェイルが身を起こすところだった。 素足で冷たい石の床の上に立った彼女は3人に向け、すうっと右腕を持ち上げた。 かたずをのんで見守る中、水平に上げられた人差し指はぴたりと背後の出口を指し示す。 「天使が近づいている。聖女を守りなさい」 「!」 ルースとウェルは、はっと踵をかえし、階段を駆けのぼっていった。 腕をおろした彼女は確かめるかのように、一歩、また一歩と足を踏み出すと、 ローブの女が倒れた場所にかがみこんだ。 そこにはローブのみが残っていて、女の姿は見当たらない。 落ちていた銀の指輪を拾い上げ、自らの指に嵌めると、彼女はふたたび立ち上がり、向きを変えた。 視線の先にはバッツがいる。バッツもまた彼女を見つめていた。 その場にただ一人動かずに残っているバッツに対して、彼女は目を奪われるほど優雅に頭を垂れた。 顔をあげ、微笑んだ彼女は、瞳に限りない親愛の情をたたえ、言った。 「我が君、お会いしたかった」 「アスタルテ・・・」 バッツは動くことができなかった。 彼の目は信じられないものを見たかのように大きく見開かれていた。
《「湖の悪魔」の謎解きをされる方へ》 |