遙かなる時空の中で 3 ヒノエ編

こちらはヒノエがゲーム中で言った和歌や漢詩などをのせています。
適当な訳+私見です。 あらかじめご了承ください。
ヒノエ以外の和歌等を見たい方は、こちら です。

ヒノエ     四章 熊野参詣
籠もよ み籠持ち 堀串(ふくし)もよ み堀串(ぶくし)もち この岡(おか)に 菜摘ます児(こ)
家聞かな 告(の)らさね
 そらみつ 大和の国は おしなべて
われこそ居(お)れ しきなべて われこそ座(ま)せ 吾にこそは告らめ(※) 家をも名をも
作者 雄略天皇     出典  万葉集 巻1 第1歌
籠も良い籠を持ち、へらも良いへらを持って、この春の丘で菜をお摘みになっている娘さん。
あなたの家はどこかききたい。おっしゃいな。この天が下の大和の国は私がことごとく支配しており、
隅から隅まで私が治めているのだよ。 私には教えて下さい。あなたの家も名をも。

※ 「我れこそば告らめ」 になっているものもあります。 それだと、私の方から先に告げてもいいのだよ。という意味になります。
   天皇のほうが自分から名乗ってもいいと申し出るのは異例なことで、よほどこの女性が気に入ったのでしょう。

天皇が春の野で若菜を摘んでいる少女に求婚する歌です。 当時は家や名を教えるのは求婚を受けるという意味がありました。
ヒノエがはじめて神子と会ったときに、自分から名乗った神子に対して口説き文句のように使っていましたが、
実はこの歌で、自分はこの地を支配している者(熊野別当)だよと自己紹介しています。
まあ、その部分はセリフとしては省略されていますが・・・推して知るべし、といったところでしょうか。


ヒノエ     間章 紀ノ川、紅葉の吉野
み吉野の 山の秋風 小夜(さよ)ふけて ふるさと寒く 衣うつなり
作者 参議雅経(さんぎ まさつね・藤原雅経)   出典  新古今和歌集 巻5 秋歌下 483
吉野の山から秋風が吹きおろし、夜もふけて、かつて都があったこの吉野の里は寒さが身にしみて、
衣を打つ砧(きぬた)の音が寒々と聞こえてくることよ。

ヒノエが吉野の里のさびれた様子を見て、下の句を言いました。
小倉百人一首にも選ばれているので、知っている方も多いのではないでしょうか。


ヒノエ     五章 福原事変
あたら夜の 月と花とを 同じくは あはれ知れらむ 人に見せばや
作者 源信明(みなもとのさねあきら)   出典  後撰和歌集 巻3 春歌下 103
明けるのが惜しいほど素晴らしい今宵の月と花とを、どうせなら情趣をよく理解する人に見せたいものだ。

戦いが始まる前にヒノエと話をすると、春は京にいたことを教えてくれ、一緒に花見がしたかったと言います。
素晴らしい桜の花を神子に見せたい。実際一緒に見に行ったときのヒノエの口説きっぷりは・・・必見です(笑)


ヒノエ     間章 清秋の紀伊湊
さねさし 相模(さがむ)の小野(おの)に 燃ゆる火の 火中(ほなか)に立ちて 問ひし君はも
作者 弟橘比売(おとたちばなひめ)     出典 古事記
相模の野原で、燃えていた火の、その火の中に立って、私に声をかけてくださったあなたよ。

日本武尊(倭建命・ヤマトタケルのミコト)とその妃、弟橘比売(おとたちばなひめ)は相模の野で、地元の役人の罠にかかり、炎に囲まれてしまいます。
そのときヤマトタケルは天叢雲(あまのむらくも)の剣(草薙(くさなぎ)の剣)で、草を切り払い、向かい火をたき、火の向きを変え、難を逃れました。
その後、一行が海を渡るとき、海神が暴風を起こし船がいまにも沈みそうになりましたが、弟橘比売が海神の怒りを鎮めるため、この歌を詠んだあと、 海に身を投じると、嵐が静まり、無事に上陸することが出来ました。

相模の野原で燃える火と愛の炎、そのなかで私を案じて呼んでくれたあなた。
夫に対する愛情とその身の安全に対する憂慮といった思いが強くこめられています。
火の海にするということで、この歌が浮かんだのでしょうか。
ちなみに会話のなかでヒノエが言う、敵を知り己を知らば、百戦危うからず は孫子の兵法 3 謀攻篇 より、
「上々吉」 とは、このうえなくよい、縁起などがきわめてよい、という意味です。


ヒノエ     間章 清秋の紀伊湊
関関(かんかん)たる雎鳩(しょきゅう)は
河(か)の洲(しゅう)に在(あ)り
窈窕(ようちょう)たる淑女(しゅくじょ)は
君子(くんし)の好逑(こうきゅう)
關關雎鳩
在河之洲
窈窕淑女
君子好逑
出典 「詩経」 国風 周南 : 關雎(かんしょ)
ヒノエが言ったのは冒頭だけですが、全文を訳すとこんな感じになります。

クヮンクヮンと仲よく鳴きかわすミサゴは、河水(黄河)の中洲にいる。
(いつもつがいでいるミサゴのように)たおやかなよき乙女は、身分ある立派な男性の素晴らしいつれあいである。
入り乱れたあさざの菜は舟の左がわ右がわとさがされる。
(それと同じように)たおやかなよき乙女は寝ても覚めてもさがし求められる。
さがしても見つからねば、寝ても覚めても思い続けられる。
はるかなはるかな物思いよ、寝返りばかりうち、寝付くことができない。
入り乱れたあさざの菜は、左がわ右がわから摘み取る。
(そのように探し当てられた)たおやかなよき乙女は、琴と大琴を奏でつつ、家庭のよき友となる。
入り乱れたあさざの菜は、左がわ右がわからと選びわけられる。
(選ばれ家庭に入った)たおやかなよき乙女は鐘をうち、太鼓をたたき、楽しい生活をする。

※ 中州 そこにたどりつくためには川の流れを横切らなくてはならない。簡単には得られないもの。
   雎鳩(しょきゅう) ミサゴ。水辺に住む大型の鳥。 夫婦の情愛がこまやかであり、礼儀正しいとされている。
   琴瑟(きんしつ) 琴と大琴。合奏することから夫婦仲のよいことのたとえ
   鐘鼓(しょうこ) 鐘と太鼓。 琴瑟と共に、貴族の家庭で奏される音楽。

この後、ヒノエは、オレはお前を選ぶ、オレの女になりな。と言うわけですが、意味が分からなかった私は???でした。
こうきゅう(好逑)が、よきつれあいという意味だとは・・・ さすがにここは解説がほしかったところです。
さらりと自分を君子に例えるあたり、自信あふれるヒノエらしいです。
そして神子は君子にふさわしい女。このオレが選び、さがし求めるほどの素晴らしい女だといっているのですね。


ヒノエ     五章 ヒノエの奇策
君命に受けざるところあり 君命有所不受
作者 孫武     出典  孫子の兵法 8 九変篇
たとえ君主の命令でも、時と場合によっては拒否することがある。

無謀な命令にいちいち従っていたら、勝てる戦も勝てない。とはヒノエの言です。
九郎を将軍としたからには、軍の指揮、策は九郎の将たる器量に任せるべきで、現場にいない頼朝がいちいち命令を下すようでは勝利はおぼつかない。
不利な状況で、それでも攻めろという頼朝と、それに従おうとする景時、九郎に対する苛立ちが感じられます。


ヒノエ     六章 鎌倉に届かぬ声
勝敗は兵家(へいか) 事(こと)期せず
羞(はじ)を包み 恥を忍ぶは 是(こ)れ男児
江東の子弟  才俊(さいしゅん)多し
捲土重来(けんどちょうらい)  未(いま)だ知るべからず
勝敗兵家事不期
包羞忍恥是男兒
江東子弟多才俊
捲土重來未可知
作者 杜牧(とぼく)   出典 題烏江亭(烏江亭(うこうてい)に題す)
戦争の勝ち負けは(そのときのめぐりあわせであり)、兵法家といえども予想できるものではない。
羞を克服し、恥を堪え忍んでこそ、立派な男である。
江東の地には優秀な若者がたくさんいたはずだ。
勢力を盛り返して、もう一度出直したならば、最後の結果はどうなったか分からないではないか。

勝敗は兵家の常 の語源です。 勝負は時の運、と負けたほうをなぐさめる意味で使います。
一の谷の奇襲が失敗した九郎を将軍からおろした頼朝にむけてヒノエがぼやくように言いました。

劉邦と天下の覇権を争った項羽は、垓下の一戦に破れ、漢軍の追撃を逃れて烏江にやってきました。
烏江の亭長が船の支度をして待っており、江東は小さいとはいえ、あなたが王となるのに不足はない。 私だけが船をもっているから漢軍がおいかけてきても渡ることができない。といいましたが、
項羽は自嘲の笑みを浮かべ、江東の兵士八千人を引き連れて進んだものの帰還者は一人もいない。彼らの父兄に合わせる顔がないと 川を渡って江東に逃げるのを拒み、漢軍に最後の白兵戦を挑みました。
捲土重来の語源ともなったこの詩は、30歳で自決した項羽の若すぎる死を悼んだものです。
日本人が源義経の悲運に同情し、大陸に渡ってチンギスハンになったという話を作ったのとおなじように、作者も、もし項羽が烏江を渡ってさえいたら、と思ったのでしょう。
しかし恥を耐え忍んでこそ男、というとおり、項羽には恥をさらしても巻き返そうという気概が足りなかった。
そこが覇者になれなかった最大の理由なのかもしれません。


ヒノエ     六章 思わぬ敵
将の謀(はかりごと)は密(みつ)なることを欲し、
士衆(ししゅう)は一なることを欲し、
敵を攻むるには疾(はや)からんことを欲す
将謀欲密
士衆欲一
攻敵欲疾
出典  三略 上略
謀(はかりごと)は密(みつ)なるをもってよしとす」 どう戦うのか尋ねた神子にヒノエはこう答えます。

将軍の謀略が秘密であれば、悪い考えが入りこむすきがない。
士卒が心を一にすれば、全軍の心が固く結ばれる。
すばやく敵を攻めれば、敵は備えを設けるひまがない。

軍にこの三者があれば、こちらの計略の裏をかかれることはない、ということですが、
現在では、謀略が漏れると準備を整えられてしまうので、秘密にすべきだという意味が主流のようです。


ヒノエ     六章 思わぬ敵
声東撃西(せいとうげきせい)の計 東に声(さけ)んで西を撃つ
出典  三十六計 第六計
東を攻めるように見せかけて西を攻める。
陽動作戦。 敵を錯覚させろということ。
しかしこれは敵の指揮者が混乱していれば勝利を得ますが、冷静であれば、かえって敗北を喫する恐れがある冒険的な策略です。

守りのあつい行宮を攻めるために隠し港を攻めるふりをし、兵力を分ける作戦ですが、これはまだ序の口。
ヒノエの策はさらに続きます。


ヒノエ     六章 思わぬ敵
暗渡陳倉(あんとちんそう)の計 暗(ひそ)かに陳倉に渡る
出典  三十六計 第八計
迂回作戦。 陳倉(ちんそう)は漢軍が項羽を攻めた場所。
漢軍は桟道の修復に注意を引きつけておいて、旧道から迂回して軍を進め、東の陳倉から攻めこみました。

攻めるとみせかけ、敵がそう思い込んで守りを固めた時期を捉えて、別方向から不意打ちする。
奇は正より出づ、正なければ奇を出だすこと能(あた)わず。
奇策をもって勝利を得るのは、通常の用兵法があればこそです。
だからヒノエは最初に隠し港を攻めるように見せて注意をひきつけ、すばやく退き、行宮へ迂回しました。


ヒノエ     六章 思わぬ敵
敵もし水(かわ)を絶(わた)らば、
半渡にしてこれに薄(せま)れ
敵若絶水
半渡而薄之
作者 呉起     出典  呉子 5 応変篇 第七章
大きな川辺の湿地での戦い(水戦)では、車や馬は役に立たないので使わず、かたわらに待機させる。
高いところから見渡すと水の状況が分かるので、川の広いところ、狭いところを知り、深いところ、浅いところを十分に偵察してから奇襲をかけて勝利を求めます。
敵がもし河を渡って攻めてきたら、半分渡ったところまできて後退の自由を失っているときに攻めることです。

ヒノエが水軍に出した指示の意味はこういう感じです。


ヒノエ     六章 思わぬ敵
兵は神速を尊(たっと)ぶ 兵貴神速
作者  陳寿(ちんじゅ)       出典  三国志 魏志 郭嘉(かくか)伝
(作者 羅貫中(らかんちゅう)    出典  三国志演義 第三十三回)  
戦いで兵を用いるには、迅速に事を行うことが大切である。

※ 「神速」 は、しんそく、じんそく、 「たっとぶ」 は、尊ぶ、貴ぶ、 どちらも使われています。

魏の曹操が西の辺境を攻めることを協議したとき、郭嘉のみが遠征をすすめた。
遠征の道は、黄沙が広がり、狂風が荒れ狂って道けわしく、人馬ともに行き悩んだため、軍を返そうと思って、郭嘉に諮ったところ、郭嘉は
「軍事は神のごとき迅速さを尊びます。身軽な兵で一気に押し進み、不意をつくことに越したことはありません」 と答えた。

敵にハメられても戦いでは落ち込んでいる暇などなく、すばやく行動すべき、ということでしょうか。
神子の前向きさに、ヒノエも気をとりなおしたようです。


ヒノエ     終章 風の示す先へ
三顧の礼
作者 諸葛亮(しょかつ りょう)     出典 前出師表(ぜんすいしのひょう)
人材を求める蜀(しょく)の劉備(りゅうび)が晴耕雨読の生活をしていた諸葛亮を軍師に迎えようとして、
諸葛亮の庵(いおり)を三度たずねて、やっと会うことができた。という故事から、人に仕事を頼むのに、何度も訪問して礼を尽くすこと。

「オレ専属の軍師として、三顧の礼で迎えたいぐらいだよ」 
神子の賢さをたたえて言いますが、オレ専属というあたりがヒノエらしいです。 


ヒノエ     終章 風の示す先へ
熟田津(にきたつ)に 船(ふな)乗りせむと 月待てば 潮(しお)もかなひぬ 今は漕(こ)ぎ出(い)でな
作者 額田王(ぬかたのおおきみ)     出典 万葉集 巻1 第8歌
熟田津(にきたつ)で、船を出そうと月の出(満潮)を待っていると、(月も出て) いよいよ潮(しお)の流れも良くなってきた。
さあ、いまこそ船出するのです。

新羅(しらぎ)の侵攻にさらされた百済(くだら)を助けるため大和を出発した斉明天皇の船団は熟田津に到着し、そこで潮待ちをしていました。
この歌は、しばらくとどまった後、いよいよ出航しようとする時に詠まれたもので、遠征にむかう皆を導くかのごとく、力強さにあふれています。
月の出と潮流とは密接な関係があり、ともに船旅には重要な条件でした。

ヒノエいわく、いにしえの姫君が戦に出る船団の勝利を祈って詠んだ歌。
美しい巫女姫ならぬ、愛しい神子姫が最後の決戦を前に、武運を祈ってよんだ歌は神職のヒノエには勝利をよぶ言霊、
戦女神そのものの言葉のように心に響いたのかもしれません。
この場面とは関係ありませんが、熊野水軍の男がいった 「ようそろ」 とは、舟を直進させることです。


ヒノエ     終章 風の示す先へ
天(あま)つ風 雲の通い路 吹き閉ぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ
作者 良岑宗貞(よしみねのむねさだ)     出典 古今和歌集 巻17 雑歌上 872
空を吹く風よ、天女が通る雲の中の通路を吹き閉ざしておくれ。
天に帰ろうとする天つ乙女の姿をしばらくの間、地上にとどめておきたいから。

僧正遍照(そうじょうへんじょう)の名で、小倉百人一首にも選ばれている有名な歌です。
九郎が吉野の袖振山で、昔、天女がこの山におりて舞を舞ったという話をしますが、この歌はその伝承をもとにしています。
この場合の天女とは、もちろん神子のこと。 神子が自分の世界に帰ってしまう前に、その姿を目に焼き付けておきたい。
・・・本気の恋は一度でたくさんだ。 ヒノエの言葉に心が痛みます。


ヒノエ     終章 時空を越えて
さざなみや 志賀の都は あれにしを 昔ながらの 山ざくらかな
作者 平薩摩守忠度     出典 千載和歌集 春上 66 : 平家物語 第七巻 忠度都落
さざ波寄せる琵琶湖畔の志賀の旧都(大津京)の跡はすっかり荒れ果ててしまったけれども、長等(ながら)の山の桜は、昔のままに美しく咲き匂っているなあ。

※ 昔ながらの山ざくら の 「ながらの山」 は長等山をかけています。

実在した平忠度が 「故郷花(こきょうのはな)」 という題で詠んだ歌。
この場合の故郷とは、生まれ育った地ではなく、古い郷(古都)という意味です。
和議の前に忠度と会ったヒノエは、叔母(忠度の妻)のもとに戻ることはできないという言葉に対し、忠度の歌をもって答え、
栄華を誇った都はすっかり荒れ果ててしまったけれども、故郷の花は昔と変わらずいまも美しく咲き誇っている、
それと同じように忠度の故郷の桜(ヒノエの叔母)もまた、別れた今でも変わらずにずっとあんたを待っているよと告げます。


ヒノエ     ???(このセリフが出てくる場面をご存知の方は、 ブログ よりご一報ください)
落花 語(ものいわ)ずして空しく樹(き)を辞す
流水 情(こころ)無くして自(おのずか)ら池に入(い)る
落花不語空辞樹
流水無情自入池
作者 白居易     出典  元家(げんけ)の履信(りしん)の宅に過(よ)ぎる (過元家履信宅)
落花情あれども、流水意なし の語源となった詩です。
親友、元槇(げんしん)が亡くなったのち、作者が洛陽履信里にあった元槇の旧宅を訪れたときの詩で、全体の訳は、

この家の主が死んでからは、飼われていた犬や鶏も散り散りばらばら。
広い園内は手入れもされずにひっそりとしている。
おりしも咲き乱れる花は主の死を悼んで、その後を追うかのように音もなく、ただいたずらに散り急ぐ。
それに反して庭の流水は主の死も知らぬげに、昔通りに無心に池にそそぎこむ。
その池には、かつて楽しい宴会を催した屋形船が人影もなく風に揺られ、破れかけて水びたしになっている。
また館のほうへ目をやると、歌を歌って遊んだ高殿は、雨に打たれて早くも傾きかけている。
前庭後院どこを見ても、心を傷ましめぬものはない。
今ではここを訪れる者は誰もなく、春の風、秋の月がおとなうばかりで、主、生前の盛時を知る者は誰もいない。

落花が静かに樹の枝に別れを告げ、はらはらと音もなく散っている。
庭園のせせらぎは無心に流れ流れて、自然に池にそそぎこむ・・・
華やかであったかつての面影は見るかげもなく荒廃し、落花流水のみが昔の姿をとどめているという詩ですが、
第三句は晩春の単なる美しい叙景ではなく、無情の思いにかられて往時をしのんだものです。

花は流れに身を任せるつもりがあるけれども、水は意に介さず流れていく。 ということを男女の仲に当てはめて、
一方は思っているけれど、もう一方はなんとも思っていない。つまり、片思いという意味になっています。
ちなみに 「落花流水」 は、落花に情があれば、流水もまた情があってこれをのせていく意から、相思相愛をいいます。


おまけ

ヒノエ
名前についての雑知識
漢字で書くと、ヒノエは “丙” で、火の兄(え)という意味です。
丙は、十干【甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)・丁(てい)・戊(ぼ)・己(き)・庚(こう)・辛(しん)・壬(じん)・癸(き)】 の第3で、
五行(木・火・土・金・水)の火にあたり、兄(え)(陽)、弟(と)(陰)では、兄になります。

陽の気(草薙の剣)を持ったヒノエは、陰の気を持つ金(ごん)属性と相克関係になり、清盛にとってまさに天敵だったわけです。


八 葉 八 卦 自然 性情 方位
有川譲 乾(ケン) 西北
武蔵坊弁慶 坤(コン) 西南
源九郎義経 震(シン)
有川将臣 巽(ソン) 東南
平敦盛 坎(カン)
ヒノエ 離(リ)
リズヴァーン 艮(ゴン) 東北
梶原景時 兌(ダ) 西


  「遙とき3」 のヒノエ以外の和歌等については
こちら です。

 

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